シリーズ第1作『悪名』

シリーズ第1作『悪名』

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　　　　★ここでは1961年から始まった勝新太郎・田宮二郎主演による『悪名』シリーズを詳しく解説
　　　　いたします。出演者名は、実際に作品中に流れるクレジットの順となっています（中には順番が
　　　　やや判りにくいクレジットタイトルのデザインもありますが）。“？”マークのある部分は、未
　　　　確認・不確定という部分ですので、あくまでも参考資料としてください。

　　　『悪名』

　　　　勝新太郎　…村上朝吉（通称“八尾の朝吉”。大阪府河内郡八尾の中野村出身の渡世人）
　　　　田宮二郎　…“モートルの貞”（本名は貞吉。
　　　　　　　　　　大阪のヤクザ・吉岡組の兄貴分。吉岡組の組員だったが、後に朝吉の舎弟になる）
　　　　　※姓に関しては後の作品によって違う。
　　　　中村玉緒　…お絹
　　　　　　　（吉岡組の裏手にある家の娘。大阪・千日前にある肉料理の店“くいだおれ”の従業員）
　　　　水谷良重（後に水谷八重子〔二代目〕）　…琴糸〔こといと〕
　　　　　（琴糸は源氏名で本名はお糸。松島遊廓の女郎。
　　　　　　　　　　博多で芸者をしていたが大阪へ流れて来たらしい。松嶋一家から因島へ売られる）
　　　　中田康子　…お千代（朝吉の村の隣村である高安村の人妻。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　後には神戸で開かれる花会の世話役の愛人になっている）
　　　　千葉敏郎　…シルクハットの親分の組の兄貴分
　　　　　　　　　　　　　　　　（“渡海屋”に戻って来た“モートルの貞”にドスを突き付ける男）
　　　　永田靖　…シルクハットの親分（因島の親分の一人。遊郭“大和楼”などを営んでいる。
　　　　　　　　　　　　奈良の遊郭で稼いでいたが米相場に手を出して失敗、夜逃げして来たらしい）
　　　　山茶花究　…吉岡（吉岡組の親分。松嶋一家の襲撃を受けて半殺しの目に遭う）
　　　　阿井美千子　…おしげ（因島の旅館“渡海屋”の仲居。
　　　　　　　　　　　　　　　朝吉たちに協力してくれる女性。島から一度も出たことがないらしい）
　　　　倉田マユミ　…お辰（吉岡の女房。
　　　　　　　　　　　松嶋一家に襲撃された後、夫の不甲斐なさに愛想をつかして出て行ったらしい）
　　　　浪花千栄子　…麻生イト
　　　　　　　　（因島で旅館“麻生館”などを営み、因島一帯の造船所界隈を仕切る麻生組の大親分）
　　　　須賀不二男　…勝〔マサ〕（大阪のヤクザ・松嶋一家の兄貴分）
　　　　嵐三右ヱ門　…おしげのおじ（因島の漁師）
　　　　荒木忍　…善兵衛（朝吉の父親）
　　　　藤原礼子（後に藤原麗子）　…お照（お絹の家に世話になっているバツイチの女性。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大阪・千日前にある肉料理の店“くいだおれ”の従業員）
　　　　若杉曜子　…白糸（松島遊廓の女郎。辰吉と一緒に“モートルの貞”に突き飛ばされる女性）
　　　　金剛麗子　…因島の遊廓“大和楼”のやり手婆
　　　　橘公子　…筆職人の妻（昔は堂島のお大尽に引かれるくらいの芸者だったらしい）
　　　　高橋とよ　…おしげのおじの妻
　　　　　（足をケガした夫に代わって朝吉たちを乗せた船を漕ぐが海流に押されて戻って来てしまう）
　　　　寺島貢　…旅商人
　　　　伊達三郎　…中盆（ある賭場の壷振り）
　　　　天野一郎　…因島の遊廓“大和楼”の主人
　　　　石原須磨男　…番頭
　　　　西川ヒノデ　…朝吉との喧嘩で“モートルの貞”に店先を壊されて怒るオヤジ
　　　　浅尾奥山
　　　　　…お千代の下宿先である有馬温泉の有馬筆の店の主人（昔は大阪のぼんぼんだったらしい）
　　　　浜田雄史　…因島の土生〔ハブ〕の男性（港で朝吉たちに“渡海屋”を紹介する）
　　　　丸凡太　…辰吉（朝吉の河内の友人）
　　　　春日清　…遊び人
　　　　小南明　…茂公（“モートルの貞”の弟分。“モートルの貞”に仕置きされる男）
　　　　福井隆次　…他の客
　　　　沖時男（後に沖ときお）
　　　　　…忠公（“モートルの貞”の弟分。“モートルの貞”に仕置きされる男）
　　　　堀北幸夫　…ある賭場の胴元
　　　　西岡弘善　…お千代の兄（巻頭、朝吉の村に軍鶏を取り返しに来る男たちのリーダー）
　　　　種井信子　…松島遊廓の女郎（辰吉を殴ろうとする“モートルの貞”を止める女性）
　　　　大谷鷹子　…妓・甲（松島遊廓での琴糸の同僚？）
　　　　小林加奈枝
　　　　　…お絹の母親（家に来た琴糸を逃がしたその足で高野山へ出かけて数日帰らないらしい）

　　　　有村淳（後に勝村淳）〔クレジットなし〕　…シルクハットの親分の子分
　　　　　　　　　　　　　　　　（朝吉らしき男が旅館“麻生館”にいることを兄貴分に報告する男）

◆

　　　　今東光原作の“悪名”シリーズ第一作。瓶やビー玉など、様々なガラス製品を打ち砕いたカラフ
　　　　ルな色合いの背景を特殊撮影して作られたタイトルバックが流れます。時代設定は昭和所期。大
　　　　阪・河内にある中野村の農家の息子・村上朝吉は名の通った暴れ者（ただしヤクザは嫌いである
　　　　）。盗んできた軍鶏〔シャモ〕で博打を行なっていたが、父親に諌められ隣村の高安村へ返しに
　　　　行くことに。その家で知り合った人妻・お千代と盆踊りの夜に深い仲になってしまい、二人は有
　　　　馬温泉に駆け落ちをする。有馬筆の職人の家に下宿して、お千代が芸者のようなことを始めると
　　　　酔客の相手をするお千代のことが気にくわなくなった朝吉は、伊勢参りの帰りである同郷の辰吉
　　　　たちと駅で出会い、大阪の松島遊廓へ繰り出します。そこで出会うのが、博多のほうから流れて
　　　　きた女郎・琴糸。その夜、辰吉がヤクザ風の男と喧嘩になる。翌日、辰吉と喧嘩をした地元のヤ
　　　　クザ・“モートルの貞”が待ち受けています。朝吉と貞が初めて会話をするシーンです。

　　　　貞　「おう、ちょっと待ってんか」
　　　　朝吉「何や？」
　　　　貞　「うぬはこれらの頭〔かしら〕か？」
　　　　朝吉「売れ残りの雑魚やあるまいし、頭も××（？）もあるかい」
　　　　貞　「シャレたこと、言いよんねえ。わいな、このあたり縄張にしてる吉岡組の“貞やん”ちゅ
　　　　　　　うニイさんや。おんどれらに恥かかされて黙ってるわけにいかんのじゃ。足腰立たんほど
　　　　　　　ドツキ回したらぁ」

　　　　しかし、朝吉が逆に貞を散々殴り付け、朝吉は貞の所属する吉岡組の客分になる。朝吉は惚れた
　　　　琴糸を足抜けさせることを考える。そんな時、吉岡組の喧嘩〔でいり〕の助っ人として出かけた
　　　　時に、心配した琴糸が遊廓を抜け出て会いに来たため、足抜けしたことになってしまいます。松
　　　　嶋（地名は“松島”のようですが、組の名前は“松嶋”）一家の兄貴分たちが琴糸の件で朝吉を
　　　　訪ねて吉岡組へ来るが、気弱な吉岡は朝吉を庇わないので貞は呆れてしまい、吉岡に盃を返し、
　　　　朝吉を兄貴分として慕うことに。吉岡組の裏の家に匿われていた琴糸は、その家の女将さんによ
　　　　ってすでに逃がされた後。朝吉と貞は、この家の娘・お絹と居候で結婚経験のあるお照と知り合
　　　　う。彼女たちが働く千日前の肉料理の店“くいだおれ”へ行くことになるが、途中の陸橋で松嶋
　　　　一家の兄貴分たちが待ち受けている。兄貴分と一対一で対決した朝吉は、懐に拳銃を持っている
　　　　かのごとく見せかけて、敵を退散させる。“くいだおれ”で貞が朝吉の子分にしてほしいと言う
　　　　と、それを断った朝吉が言います。

　　　　朝吉「仲良しの兄弟でええやないか」（「親分」ではなく「兄貴」「兄ィ」と呼びます）

　　　　四人が宝塚温泉へ泊まりに行った頃、吉岡組が松嶋一家の襲撃を受け、吉岡は半殺しの目に遭う
　　　　。お照は貞に惚れ込み、一緒になると言う。いつ死ぬかもしれない身だと言う貞にお照は言う。

　　　　お照「わてという女は先の亭主に懲りといても、またあんたみたいな人に打ち込む。苦労星やね
　　　　　　　んな」

　　　　お絹も朝吉に迫られ困るが、しかしまんざらでもないので、証文を書かせる。“あなたを一生の
　　　　妻にします　右、正に相違なく候　朝吉　お絹どの”。四日ばかりして、大阪へ様子を見に行っ
　　　　たお絹とお照が戻ってくる。吉岡が襲撃されたこと、琴糸が連れ去られ、広島の因島へ売られた
　　　　ことを聞かされる。因島へ行くことにした朝吉だが、軍資金がない。そこで、有馬温泉の以前の
　　　　下宿先である筆職人の家を訪ねる。そこにはまだお千代が住んでいて、彼女が良い知恵を授けて
　　　　くれる。彼女は今では神戸で開かれる賭場の世話人の愛人となっていて、その賭場に朝吉を参加
　　　　させ、こっそり札の絵柄を教えてやり、大金を手に入れさせてやる（ただし、朝吉はイカサマは
　　　　大嫌い。しかし、背に腹は替えられない）。その金を持って朝吉と貞は因島へ乗り込む。因島の
　　　　土生〔はぶ〕にある“渡海屋”という旅館に部屋を取った朝吉と貞は、島の遊廓街にある“大和
　　　　楼”という遊廓に琴糸の写真が飾られているのを発見する。しかし、琴糸を助け出しも島を抜け
　　　　て出す策がないことに気付いた朝吉は、“渡海屋”の仲居・おしげから島の情勢を聞く。“大和
　　　　楼”や遊廓を取り仕切っているのは、“シルクハットの親分”という男らしい。奈良の遊廓で儲
　　　　けたが、米相場で失敗して、因島にシルクハットだけをかぶって逃げてきた男らしい。朝吉はお
　　　　しげに相談を持ちかけ、“シルクハットの親分”を良くは思っていない彼女のおじの漁師に島か
　　　　ら脱出させてもらう約束を取り付ける。そして二人が一緒にいては怪しまれるので、朝吉は山の
　　　　手の　“麻生館”という旅館に泊まることにする。“麻生館”の女将はこの島の造船所関係を取
　　　　り仕切っている麻生イトという女親分らしい。貞は“大和楼”へ出かけ、琴糸と再会する。普段
　　　　は外出出来ないが市の立つ日には外出出来るとあって、その日に琴糸を脱出させる計画を立てる
　　　　。市の立つ日、朝吉とおしげ、貞と琴糸が連れ立って歩き、途中でおしげと琴糸を入れ替える。
　　　　朝吉と琴糸、貞は漁師の家へ向かうが、漁師が足をくじいてしまっていて、その妻が船を漕ぐが
　　　　、潮の流れの具合いもあって、結局、島から脱出出来ない。“渡海屋”へ戻った貞を待っていた
　　　　のは“シルクハットの親分”の子分たち。トボける貞だが、朝吉と琴糸が“麻生館”にいること
　　　　がバレてしまう。朝吉と琴糸の元へ“シルクハットの親分”が乗り込んでくる。しかし、朝吉は
　　　　今度は本物の拳銃（お千代が誰かに預かっていたものを借りたらしい）を“シルクハットの親分
　　　　”に突き付け、追い詰めていく。そこに“麻生館”の主・麻生イトが現われる（暗い隣の部屋か
　　　　らシルエットだけで現われる姿が素晴しい迫力）。

　　　　イト「シルクハットの。私が主〔あるじ〕の館〔やかた〕と知って来なすったにしては、無礼だ
　　　　　　　ね」

　　　　二千人もの子分を持つイトには、“シルクハットの親分”も到底かなわない。驚く朝吉に貞が言
　　　　う。

　　　　貞　「びっくりしたのは、あんさんのピストルやで。どこで、ンなもん手に入れてきてん。また
　　　　　　　はったりやっとんのかと思たで」

　　　　この始末をイトに預けることになる。イトは、琴糸の身柄も預かるが、一週間の暇を出すと言う
　　　　。そこで大阪や京都にでも旅行に行き、二人で戻ってくるように言う。

　　　　イト「きっとだよ」

　　　　念を押すイトだが、それは「帰ってくるな」ということなのだ。

　　　　イト「約束にそむいたらタダおかないよ。私はね、シルクハットのとうちゃんとはちょっとばか
　　　　　　　りわけが違う。子分も二千人からいるんだからね」

　　　　大阪の“くいだおれ”。そこでお絹を紹介された琴糸は失望してしまい、因島へ帰ると言い出す
　　　　が、朝吉は東京へでも出るように薦める。その前に京都見物をすることにして、嵐山の渡月橋あ
　　　　たりへ朝吉と琴糸、お絹が出かける。そこでお絹に琴糸を京都駅まで送らせた朝吉は、一人で因
　　　　島へ戻っていく。約束が違う（表向きは）と怒ったイトは、朝吉を浜へ連れ出す。そして朝吉を
　　　　座らせて、激しくステッキで打ち付ける。

　　　　イト「このバカが。何で戻ってきた。バカ正直もええ加減にさらせ！」
　　　　朝吉「わいが死んでも、わいのド根性は死なへんわい」

　　　　何度も何度も叩かれながら起き上がってくる朝吉。呆れるイト。

　　　　イト「わし、おまえに負けた。今にええ男になるやろう。うん、名も売れる男になるで。起きら
　　　　　　　れたらな、このステッキにすがって帰れ」

　　　　そう言うとイトは去っていく。

　　　　朝吉「これで借りは返したで。もう琴糸に指一本触れさせへんわい」

　　　　立ち上がった朝吉はステッキを折って海へ投げ捨てる。

　　　　朝吉「“名が売れる”か。何かしてんねん」

　　　　波打ち際に倒れ込む朝吉。

　　　　朝吉「そんなもん、どうせ何にもならん“悪名”やないけ。わいがな…わいが、そんなもん欲し
　　　　　　　いてやったと思てけつかるのかい。アホンダラ！。わいが勝ったんや。お絹、貞、琴糸…
　　　　　　　わいが、わいが勝ったんやで。わいは勝ったんや。わい、勝ったんやでー！」

◆

　　　　●この第一作（そして続く第二作）は、単なる娯楽作品ではないのですね。スタッフの顔ぶれも
　　　　そうですが、これは文芸大作として作られた超一級作品なのです。

　　　　●田宮二郎さん扮する“モートルの貞”という通称の由来は、朝日新聞社刊／赤井英和著《人生
　　　　さだかやない》によると、赤井秀和さんが大阪の八尾に健在だった本物の“モートルの貞”こと
　　　　小寺貞さんに、なぜ“モートルの貞”という名前がついたのかを尋ねられたそうで、多くの映画
　　　　解説本などでは、“モートル＝バクチのこと”や“モーターのように馬力があるから（劇中より
　　　　）”とされていますが、貞さん曰く「“飲む・打つ・買う”の三拍子揃って、もうどうしょうも
　　　　ない…もードーショー…モードル…モートルとなったんや」。原作者でもある今東光さんの命名
　　　　だそうです。

　　　　●“モートルの貞”と争う松島遊廓の女郎・白糸役での捨て身の名演技で、若杉曜子さんが所長
　　　　賞を貰われたそうです。

LAST UP DATE ◆ 2019年4月4日