東宝映画『東から来た男』

使用している画像、その他の権利は全て、原権利者に帰属します。
映画・テレビドラマファン同志の楽しみのみを唯一の目的としたものであり、
利益を得たり、権利を侵害しようとするものではありません。

注）　他掲示板への転送など、画像の二次的な使用は厳禁いたします。

東宝映画『東から来た男』

　　　　ここでは『ギターを持った渡り鳥』のアナザーサイドストーリー（？）を研究（そんなオーバー
　　　　な…）・紹介します。

◆ ◆ ◆

　　　　…さて、拙Webを訪れてくださる日活映画ファンの先輩であるNOBOさんよりコピー提供いただ
　　　　いた冊子《日活映画》昭和33年4月号の“スタジオ告知板”（製作予定作品などの紹介コーナー
　　　　）の記事に、「七月の新盆には総天然色、日活スコープの豪華娯楽大作『ギターを持った渡り鳥
　　　　』（監督／井上梅次、主演／石原裕次郎）があります、井上・石原コンビで贈る夢のアルバムで
　　　　す」（原文のまま）と、ありました。『ギターを持った渡り鳥』は、もちろん小林旭さんのヒッ
　　　　ト作、しかも昭和34年『南国土佐を後にして』のヒットにより、生まれた作品のはずですが、そ
　　　　の前に、企画として、少なくともタイトルだけは存在したというのが驚きでした。

　　　　…ここでNOBOさんのお話を引用させていただきますが、プロデューサー・児井英生氏の後輩・
　　　　永井健児氏の著作《活動屋児井英生》によると、昭和32年秋、『俺は待ってるぜ』の次回作の
　　　　打ち合わせに、井上梅次監督と児井氏が箱根に行き、ここで“渡り鳥”の原案らしきものを児井
　　　　氏が提案したらしいのですが、井上監督の『嵐を呼ぶ男』に押し切られたとか。また昭和34年
　　　　夏に日活をやめた井上監督を児井氏が訪ね、『ギターを持った渡り鳥』の題名を貰ったと書かれ
　　　　てあるそうです。

　　　　…ここで次に、やはり拙Webを訪れてくださる由美子さんからのお話があるのですが、井上梅
　　　　次監督作品である昭和36年の東宝映画『東から来た男』が、どうやら、石原裕次郎版『ギター
　　　　を持った渡り鳥』の残像のようなものらしいのです。加えてyujiroさんのお話をご紹介。95年
　　　　朝日ソノラマ刊／監修・森卓也《ニッポン映画戦後50年》の“井上梅次監督に聞く…”では監
　　　　督自身が次のように語っておられるようです。

　　　　──―『ギターを持った渡り鳥』の企画も監督だとか？。
　　　　◆『シェーン』（53年アメリカ映画）を狙った『ギターを持った渡り鳥』というストーリーを
　　　　小林旭用に持っていたんですよ。ところがそれをやらずに日活を辞めちゃった。児井英生さんが
　　　　わざわざ宝塚まで来られて、その話を譲ってほしいと言われたが、僕は自分でやりたいと断りま
　　　　した。児井さんには色々お世話になったんで、タイトルだけを譲ったんです。その物語は結局、
　　　　加山雄三くんの第1回の主演映画『東から来た男』（61年宝塚／東宝）になったんです。若大
　　　　将でスターになる直前のことです。児井さんの本に「井上監督には二つの大きな世話になってい
　　　　る。ひとつは『嵐を呼ぶ男』で日活のトッププロデューサーになれたし、もう一つは『渡り鳥』
　　　　シリーズである」と書かれていました…

　　　　（以下、yujiroさん談）これを読むと井上監督はどうやら『渡り鳥』は始めから小林旭さんを
　　　　前提にしていたようです。会社の思惑との違いなのでしょうか。シナリオまで既に完成していた
　　　　のですから、退社のいきさつと大きく関連するのでしょうかね…とのこと。この話を聞いて、私
　　　　も納得がいきました。確かにこの東宝映画『東から来た男』は、どう見ても日活映画そのものな
　　　　のです。ここで、その『東から来た男』をご紹介。

◆ ◆ ◆

　　　　1961年宝塚映画／東宝『東から来た男』
　　　　　監督：井上梅次　製作：杉原貞雄　脚本：須崎勝弥、蓮池義雄、井上梅次　撮影：岡崎宏三
　　　　　照明：下村一夫　美術：近藤司　録音：中川浩一　音楽：鏑木創　編集：庵原周一
　　　　　助監督：高野昭二　技闘：阿部幸四郎　現像：東京現像所　製作担当者：沖原俊哉

　　　　主な出演者
　　　　　加山雄三　…長谷部謙太（東京から遠く離れた新港という地方都市に来たフリーの流し。
　　　　　　実は二年前、東京で親友だった本間重夫を八百長試合で死なせたボクサーのジョー長谷部）
　　　　　　※都市名ははっきりしませんが、“新港信用金庫”などという銀行が出て来ますので、仮に
　　　　　　　“新港”としておきます。
　　　　　星由里子　…本間道子
　　　　　（新港にある洋裁店“ムラサキテーラー”の経営者。両親は戦争で失くしている。
　　　　　　彼女の実家である戦争で焼けた老舗の和菓子店“むらさき堂”の跡地に住む人たちの大家）
　　　　　佐藤允　…上杉
　　　　　　（唐沢が営むボクシングジム“ミナトジム”を任されている。元フェザー級チャンピオン）
　　　　　船戸順　…江川（修が通う小学校の教師。本間道子の恋人）
　　　　　佐原健二　…本間重夫
　　　　　　　　　　（長谷部謙太の親友で本間道子の兄。ボクサーだったが試合中に亡くなっている）
　　　　　安部徹　…唐沢（建築会社の唐沢組の社長で市会議員。
　　　　　　他にも唐沢不動産や唐沢芸能社、機関誌《泉》発行所などを営んでいる悪玉。
　　　　　　　　複合娯楽センター建設のために“むらさき堂マーケット”の建設予定地を狙っている）
　　　　　大坂志郎　…野原耕太郎（“むらさき横丁”の住人。詩集を売る詩人）
　　　　　柳沢真一（後に柳澤愼一）
　　　　　　…太郎（“むらさき横丁”の住人。ミルクホール“ムラサキ”の隣にある衣料店の店主）
　　　　　桂小金治　…岡部巡査
　　　　　早川恭二　…文雄
　　　　　　　　（“むらさき横丁”の住人。長身の青年。ラジオ修理などの早川兄弟商会の経営者）？
　　　　　立原博　…三平（唐沢組の子分の兄貴分）
　　　　　森川信　…田中国造（“むらさき横丁”の住人。“むらさき堂”の元・番頭。
　　　　　　　ミルクホール“ムラサキ”の経営者。“むらさき堂マーケット”を建てようとしている）
　　　　　八雲楊子　…吉村ゆかり（洋裁店“ムラサキテーラー”の従業員。本間哲夫の恋人）
　　　　　丘野美子
　　　　　…春子（“むらさき横丁”の住人。ミルクホール“ムラサキ”の従業員。太郎の婚約者）
　　　　　万代峯子（萬代峰子）　…敏江（“むらさき横丁”の住人。修の母親）
　　　　　有木山太　…谷（ジャズ喫茶のマスター。唐沢と結託している）
　　　　　島津雅彦　…修（“むらさき横丁”の住人。鳩を飼っている小学生の少年）
　　　　　矢代和雄（東京放送）　…本間哲夫（本間道子の弟。菓子店に勤めている。
　　　　　　　　　　　トランペット奏者。ジャズ喫茶のバンド“リズムクィーン”のリーダーになる）
　　　　　天王寺虎之助　…源吉（“むらさき横丁”の住人。額の上がった巨漢）
　　　　　遠藤辰雄（後に遠藤太津朗）　…杉山（唐沢組の幹部。唐沢不動産の代表）
　　　　　瀬良明　…徳次
　　　　　　　（“むらさき横丁”の住人。屋台の主人。駅前で唐沢の子分に殴られて帰って来る男性）
　　　　　頭師孝雄　…武雄（“むらさき横丁”の住人。ラジオ修理などの早川兄弟商会の経営者）？
　　　　　　※早川恭二さん扮する文雄と兄弟ではないでしょうか？。“文雄”と“武雄”で“文武両道
　　　　　　　”というような意味で名付けられたのでは？。
　　　　　頭師正明　…本間哲夫が働く菓子店の同僚（店先できんつばを焼いている男性）
　　　　　福山博寿（後に福山象三）　…児島（唐沢組の幹部）
　　　　　世志凡太　…伝公（唐沢組の子分。三平の相棒）
　　　　　内田朝雄　…橋本（唐沢組の専務）
　　　　　楠義孝　…
　　　　　大江真砂夫　…警察署長（岡部巡査の上司）
　　　　　弘世東作　…高村
　　　　　　　　（商店連合会の役員。“むらさき横丁”の住人たちに会費を払わせようとする男性）？
　　　　　海老江寛　…吉村雅堂（“むらさき横丁”の住人。ゆかりの父親。“むらさき印房”の主人）
　　　　　長谷川みのる　…
　　　　　妻紀一平　…
　　　　　男城輝　…
　　　　　東光男　…
　　　　　松本徳二　…
　　　　　吉川雅恵　…やす（“むらさき横丁”の住人。源吉の妻）
　　　　　梅香ふみ子　…野原まき（“むらさき横丁”の住人。野原耕太郎の妻）
　　　　　　※“むらさき横丁”の住人ではありますが、野原耕太郎は独身のようなので、姓は野原では
　　　　　　　ない可能性が高いと思われます。
　　　　　瀬川恭助　…
　　　　　渋谷辰夫　…
　　　　　楠栄二　…
　　　　　綾小路絃三郎　…
　　　　　森金太　…勝三（“むらさき横丁”の住人？）
　　　　　内山鴎介　…松助（“むらさき横丁”の住人？）
　　　　　井浪敏子　…徳次の妻？

　　　　以降、主なクレジットなしの出演者
　　　　　岩倉高子　…バーのホステス（入って来た三平たちを振り返る女性）
　　　　　阿部幸四郎　…長谷部謙太と本間重夫のボクシングの試合のレフリー

◆

　　　　…舞台は東京から遠く離れた地方都市（この点がまたいかにも日活映画らしい雰囲気）・新港。
　　　　発展途上にあるこの町の小学校で鳩を持ち込んでいる少年・修が“むらさき横丁”に“むらさ
　　　　き堂マーケット”を建て、悪い奴らから平和を取り戻したいという作文を書きます。唐沢という
　　　　悪玉が“むらさき横丁”の土地を欲しがって、住民にイヤがらせをするので、毎日のように岡部
　　　　巡査の元に被害届けが提出されます。それでも明るく日々の業務に勤しむ横丁の住民たち。その
　　　　頃、この街に流しの謙太が現われます。彼は唐沢の子分たちに絡まれても殴られっぱなしで、な
　　　　ぜだか彼は喧嘩はしたくない様子。土地を担保に銀行から金を借りることになり喜ぶ横丁の人た
　　　　ち。そのパーティー（…とはいえ、会場は荒れた空き地…笑）の席で住民にせがまれ、歌い出す
　　　　謙太。そこへまた唐沢の子分たちが現われ、謙太はまたもや殴られたまま。そしてどこかから横
　　　　槍が入ったのか、銀行から金は貸せないという知らせを受け、怒り出す住民たち。住民たちに慕
　　　　われている江川先生は謙太に相談するが、謙太は江川先生のほうが頼りになるだろうと言うだけ
　　　　で…。

◆

　　　　…海を見つめる謙太の元へ唐沢の用心棒でボクシングジムを任されている上杉がやって来る。彼
　　　　は元フェザー級のチャンピオンで、実は謙太は東京のボクサー“ジョー長谷部”だったことを思
　　　　い出したと告げる。トボける謙太をジムに連れて行き、上杉はパンチを繰り出し、謙太の動きか
　　　　ら確信を得ることに。唐沢に呼び出された謙太だが、もちろん仲間にならないかという話は断る
　　　　。調査により謙太は二年前に親友・本間とリングで対戦、彼を死なせてしまったことが判明する
　　　　。怠け者だった謙太は八百長試合の話を本間に持ち込んで怒鳴られ、人が変わったように一か月
　　　　間の特訓の末、ハードパンチャーに変身するが、その結果、本間を死なせてしまったらしい。そ
　　　　のショックや詫びの気持ちから警察を出た謙太は東京から歩き続け、本間の妹や弟のいる新港に
　　　　辿り着いたらしい。謙太を白い目で見ていた住民たちはその話を聞き、謙太に謝ることに…。

◆

　　　　…本間の妹・道子は洋裁店を経営、そしてその弟・哲夫は菓子店に勤めてはいますが、ジャズ喫
　　　　茶でトランペットを吹いたりしています。哲夫はジャズ喫茶のマスターの谷に「バンドを作って
　　　　やろう」と持ちかけられ、騙されて書類にハンコを押してしまう。実はその書類は三百万円の借
　　　　用証だったと知ることに。大人たちの集まっているところで、修は鳩が空気銃で撃たれた（唐沢
　　　　の子分たちの仕業）と泣いている。唐沢の元へ乗り込んだ哲夫や太郎たち、横丁の住民たちは唐
　　　　沢の子分たちにやられてしまい、いつもは我慢するように彼らを諌めていた詩集売りの野原も怒
　　　　って立ち向かうがケガをさせられる。鳩の墓と少年の姿を見た謙太が野原の置き手紙を読んでい
　　　　ると、そこへ岡部巡査に担がれボロボロになった野原が帰ってくる。署長に談判する江川先生と
　　　　岡部巡査だが話は受け入れられず、岡部巡査は制服を脱ぎ捨てる…。その頃、哲夫に「今日一
　　　　日だけ君の兄さんにしてもらうよ」と言い放ち出ていく謙太は、唐沢を探し求めます。ジムへ行
　　　　くと、そこには上杉がいて「タダじゃ帰れねえぜ」…と。上杉に夜の工事現場へ連れ出されると
　　　　そこには唐沢や大勢の子分たちが待ち受けている。そこで謙太と上杉はボクシングで決闘をする
　　　　ことに。激しい殴り合いの結果、上杉は「俺の負けだ」とその場に倒れ込む。それでも卑怯な唐
　　　　沢は、子分たちをけしかけます。そこで起き上がった上杉は、「男は（真の）男に味方するもん
　　　　よ」と謙太の助っ人に変身！（宍戸錠さんだ！…笑）。そこへ警官隊が駆けつけて、大団円、唐
　　　　沢が逮捕された新聞報道が行なわれることに…。

◆

　　　　…その夜、開かれた住民たちのパーティーの席になかなか現われない謙太。修が鳩の墓にお参り
　　　　に行くと、謙太が新しい鳩を買ってくれていて喜ぶが、謙太からこっそり街を出て行くことを内
　　　　緒にしておいてほしいと告げられてしまう。そして謙太はパーティー会場から抜け出して来た野
　　　　原にだけは別れを告げて町を出ていく。修が戻って来たのを謙太だと勘違いした道子は、謙太が去
　　　　ったことを知り悲しむが、修の必ず謙太は帰ってくるという言葉を信じ、いつまでも待つことを
　　　　誓うのでした。…終。

◆ ◆ ◆

　　　　…話の展開や人物の設定まで、どう見ても日活映画そのものですよね？（笑）。これを石原裕次
　　　　郎版とするなら、死なせた親友は二谷英明さん、その妹は北原三枝さんか芦川いづみさんあたり
　　　　でしょうか。小林旭版とするなら、死なせた親友は葉山良二さん、その妹は浅丘ルリ子さん、そ
　　　　の弟は木浦佑三さん（悪玉に騙されてハンコを押しそう…笑）、上杉は誰が主演でも宍戸錠さん
　　　　でしょう（笑）。修少年は江木俊夫さんでしょうか（島津雅彦さんそのものでも可）。安部徹さ
　　　　んなど別に金子信雄さんに置き換えなくてもそのまんまですし、その他のキャストも、桂小金治
　　　　さんや柳沢真一（後に柳澤慎一）さん、日活女優だった丘野美子さんなど、まるで日活映画のよ
　　　　うです。つまり日活を離れた井上梅次監督が他社で作った日活映画？（笑）。主人公が馬に乗っ
　　　　て登場したら“渡り鳥”になりますが、石原裕次郎さんでも充分出来る（元ボクサー役ですし）
　　　　作品でしょうね。

◆

　　　　…日活を退社された後に香港へ渡り、ショウ・ブラザースという当時の香港最大手の映画会社で
　　　　数多くの香港映画を手がけられた井上梅次監督の作品リストをついでながらご紹介しておきます
　　　　（笑）。

　　　　●1966年
　　　　　“諜網嬌娃／OPERATION LIPSTICK”（当時流行りのスパイアクション）
　　　　　『香港ノクターン』“香江花月夜／HONG KONG NOCTURNE”
　　　　　　（ミュージカルで松竹映画『踊りたい夜』のリメイク。2002年東京国際映画祭にて上映）
　　　　●1967年
　　　　　“青春鼓王”（日活映画『嵐を呼ぶ男』のリメイク）
　　　　　“花月良宵／HONG KONG RHAPSO-DY”
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ミュージカルで松竹映画『東京シンデレラ娘』のリメイク）
　　　　●1968年
　　　　　“諜海花／THE BRAIN STEALERS”（スパイアクション）
　　　　　“釣金亀／THE MILLIONAIRE CHASE”（青春コメディ。公開は69年5月）
　　　　　“女校春色／WHOSE BABY IS IN THE CLASSROOM”（青春コメディ。公開は70年2月）
　　　　　“青春萬歳／THE SINGING ESCORT”（青春コメディ。公開は69年8月）
　　　　●1969年
　　　　　“青春戀／YOUNG LOVES”（青春コメディ。公開は70年6月）
　　　　　“遺産五億元（遺産五億圓？）／5 BILLION DOLLAR LEGACY”
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（スリラー。公開は70年3月）
　　　　　“女子公寓／APARTMENT FOR LADIES”（青春コメディ。公開は70年11月）
　　　　●1970年
　　　　　“五枝紅杏／LONG ROAD TO FREEDOM”（女性主演のアクションもの。公開は71年4月）
　　　　　“齊（注／本字がありません）人楽／THE MAN WITH TWO WIVES”
　　　　　　（文芸コメディ。公開は71年6月）
　　　　　“鑽石艶盗／THE VENUS TEAR DIAMOND”
　　　　　　（コメディで大映映画『宝石泥棒』のリメイク。公開は71年2月）
　　　　　“我愛金亀婿／WE LOVE MILLIONAIRES”（青春コメディ。公開は71年8月）
　　　　●1971年
　　　　　“夕陽戀（夕陽戀人？）／SUNSET”（青春悲恋もの。公開は71年11月）
　　　　　“玉女嬉春／THE YELLOW MUFFLER”（青春ミュージカル。公開は72年1月）
　　　　※英語題名と公開日時は香港の電影雙周刊出版社刊《1969-1989首輪影片票房紀録》より

LAST UP DATE ◆ 2020年6月21日