硝子のジョニー野獣のように見えて

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硝子のジョニー野獣のように見えて

　　　　いつもいつも拳銃をブッ放す作品ばかりを紹介していたのでは、「本当にバカだねぇ…」と言われ
　　　　てしまいますので、ここでは芦川いづみさんの代表作の一本となっている作品を紹介します。

◆ ◆ ◆

　　　　“昭和三十七年度芸術祭参加”と出て荒れた海が映りタイトル。そこは北海道・稚内の貧しい漁
　　　　村。海岸で昆布を獲りながら、それを頭に乗せ、髪のようにしてみて笑い、主題歌“硝子のジョ
　　　　ニー”を口ずさむ深沢みふね（芦川いづみ）、若干、知能が低いらしい。そこへ娘たちを売り飛
　　　　ばすことを生業としている秋本孝二（アイ・ジョージ。関西弁という設定です）が、みふねの母
　　　　（田中筆子）や妹たち家族とともにやってくる。

　　　　みふね「お金、貰った？。私のことは心配しなくってイイの。きっとジョニーが助けてくれる」
　　　　　　　　　　　（注／問題はあるかと思いますが、以降、彼女のセリフは若干子供っぽく読んでみてください）
　　　　母親　「ジョニーだなんて…おめえ、まだそんな夢みてえなことを…」
　　　　みふね「だって、あの人がそう言ったもん…」
　　　　妹　　「ネエちゃん！、ネエちゃん、行かんでー！」

　　　　みふねは、隣家のよしえ（和田悦子。ご存知、和田浩治さんの実のお姉さん）とともに秋本のト
　　　　ラックに乗せられる。ここでクレジットタイトルが流れる（BGMは音楽のみ）。幌の隙間から
　　　　外を見つめるみふね、そのうちに涙が溢れてくる。妹たちが追いかけてくるが…。

　　　　旭川駅の隣の近文〔チカフミ〕駅でみふねとよしえは逃げ出す。よしえは秋本に捕まるが、みふ
　　　　ねは走り出した列車のデッキに飛び乗ってしまう。悔しそうに列車を見送る秋本。二等客車では
　　　　ジョーという男（宍戸錠）が、周りの男たち（峰三平さんや東郷秀美さんなど）と酒の一気飲み
　　　　の賭けをして勝ち、デッキへ出てくる。外へ向かって吐き、列車から落ちそうになる（本当に
　　　　走る列車のデッキで撮影しているようです！）。それでも笑いながら吠えるジョーに驚くみふね
　　　　。客車に戻るジョーをもの珍しそうに客車のドアのガラス越しに見つめる（ここで目をパチクリ
　　　　するのですが、本当にちょっと知能が劣っているように見えるから不思議。確かな演技力ですね
　　　　）。しかし無賃乗車で車掌（青木富夫）に捕まってしまう。イヤリングを渡しますが、もちろん
　　　　許してもらえません。

　　　　みふね「降ろさないで！。遠くまで連れてって！。捕まらないところまで連れてって！」

　　　　車掌に引きずられていくみふねの声を聞きつけて、ジョーがやってくる。

　　　　ジョー「おい、ひでえこと、するじゃねえか！」
　　　　車掌　「あんたは黙っていてください。この女は金を持っておらんのです」
　　　　ジョー「金だと？。よし！（…と、先ほど儲けたクシャクシャの札束を車掌の口に詰め込む）」
　　　　ジョー「はっはっはっ！（…去っていく）」
　　　　車掌　「（口から札束を出して、みふねに向かって）どこまで行くんだ？」
　　　　みふね「（ジョーの姿を追い求め）ジョニー…」
　　　　車掌　「どこまで行くんだよ！」
　　　　みふね「あ、あの…」

◆

　　　　…朝。客車の通路で目覚めるみふね。終着の函館駅らしい。駅前でジョーを見つけ、彼を追って
　　　　バスに乗る。行き先は競輪場である。ジョーは宏（平田大三郎）という若い選手のトレーナー兼
　　　　“一本買いのジョー”という予想屋をしているのだった。その二人の姿を金網越しに見入るみふ
　　　　ねと、宏の恋人・和子（松本典子）。競輪場のそばの居酒屋（暖簾には“由美の店”“由美ちゃ
　　　　ん”などと書かれている）の女将・由美（南田洋子）とも顔見知りのジョー。宏は実は自分には
　　　　実力がないことが判っていて、恋人の和子とともにジョーの元から逃げ出したいのだった。しか
　　　　し、宏に入れあげるジョーに競輪学校の寄宿舎に入れられてしまう。ジョーの後を尾行するみふ
　　　　ね（ジョーと同じ恰好をして歩き、ジョーが立ち止まると同じように立ち止まる…笑）。ジョー
　　　　は市場の中を通り抜け（大勢の通行人は、明らかに撮影を見物している人たちで、ピントはボケ
　　　　ていますが、みんな物珍しそうに、宍戸錠さんと芦川いづみさんを見ています）、定宿の“北海
　　　　ホテル”へ。その曲り角でみふねを捕まえ、なぜ自分を尾行するのかを問い詰めるが、みふねは
　　　　その場に倒れてしまう。慌ててホテルへ担ぎ込み、医者（英原穣二）を呼ぶと、何と栄養失調だ
　　　　というので、呆れるジョー。部屋へ戻り、女中さん（福田トヨ）に、

　　　　ジョー「何が栄養失調だ！…どこ行ったんだ、あのアマ」
　　　　女中　「今はお風呂だよ」
　　　　ジョー「風呂だと！？。あのアマー！」

　　　　その頃、浴室でのぼせ加減のみふね。部屋には御馳走が運ばれてくるので、驚くジョー。

　　　　女中　「勘定払うのはあんただけんど、食べんのはお嬢さんだよ」
　　　　ジョー「お嬢さんだと！？。呼んでこい！、あの女！」

　　　　それを部屋の外で立ち聞いていたみふね（風呂に入って身ぎれいになっている）、部屋に入り、

　　　　みふね「いろいろ有難うございました（…と、出ていこうとする）」
　　　　ジョー「どこ行くんだよ…」
　　　　女中　「（みふねに向かって）いいんだよ、あんな奴の言うこと、気にしなくたって」
　　　　ジョー「何だと！」
　　　　女中　「ほら、座って。顔はゴッツいけど、気持ちは意外にイイだから」
　　　　ジョー「（女将に向かって）うるせえ！、早く出てけ！」

　　　　笑いながら部屋を出て行く女中。しかしみふねは泣き始める。

　　　　ジョー「どうしたんだよ？」
　　　　みふね「もったいない…」
　　　　ジョー「やめなよ、酒がマズくなる」
　　　　みふね「…」
　　　　ジョー「食わねえと叩き出すぞ！」

　　　　凄い食欲のみふねだが、セロリを口に入れると、「うわ～…」（笑）…しかし食べ続ける。

　　　　…窓辺に座って、“硝子のジョニー”を歌うみふね。ジョーも歌う。電灯を消してみふねに襲い
　　　　かかるジョーだが…。

◆

　　　　…翌日。競輪場で予想屋をしているジョーの元へ、宿で一人で待っているのはイヤだというみふ
　　　　ねがやってくる。ジョーは宏の車券を買い、レースを見るため、みふねに留守番をさせる。そこ
　　　　へ予想の紙を買いに男が来る。みふねは困るが、目の前にある“45ウイスキー”の看板を見て
　　　　“4-5”と書き、渡してしまう（笑）。レースを見つめるジョーと和子だが、宏は負けてしま
　　　　う。その代わりみふねの予想は的中、儲かった先般の男が祝儀だと三千円置いていく。みふねは
　　　　戻ってきたジョーに自慢するが、機嫌の悪いジョーに冷たくあしらわれて、ガッカリする。

　　　　…二人の姿を店先から見つめる由美。

　　　　由美　「ふん、負けやがって。いいザマだ」

　　　　そこへレースで負けたらしいおきくバアさん（武智豊子〔後に武知杜代子〕）がやってくる。こ
　　　　のバアさんは、売春宿を営むバアさんである。

　　　　おきく「あー、ヤだヤだ。冷やで一杯おくれ。（由美の見つめる方向を見て）…あ、イイ子がい
　　　　　　　　るねー。あんなのがうちにも一人いると、儲かるんだがねぇ」
　　　　由美　「何だい！、あんな女」
　　　　おきく「妬くなよ」
　　　　由美　「冗談じゃないよ！」
　　　　おきく「はっはっはっはっ…」

　　　　ションボリとジョーの後を着いて歩くみふね。

　　　　ジョー「おまえまでガックリすることねえじゃねえか」
　　　　みふね「だって…」
　　　　ジョー「明日だってあさってだってチャンスはあるんだ。そうだろ？」
　　　　みふね「うん…」
　　　　ジョー「元気出しな」
　　　　みふね「！…元気を出すのは、あんただよ！」
　　　　ジョー「ちげえねえや！。あっはっはっはっ！」
　　　　みふね「（笑）」
　　　　ジョー「おまえ、さっき三千円貰ったそうだな？」
　　　　みふね「うん」
　　　　ジョー「よし、じゃあ今夜は景気よく厄払いと行くか？」
　　　　みふね「うん、厄払いと行こうよ！」（このセリフの部分、芦川さん、素に戻っていると思いま
　　　　　　　　す）
　　　　ジョー「この野郎！」

　　　　笑う二人。

◆

　　　　…新聞で昨日のレースの結果を見て機嫌の悪いジョーに、家に帰るように言われ、悲しげなみふ
　　　　ね。

　　　　みふね「みんな、あたしを捨てていくんだよ。あんただってそうだよ。黙ってたって判るよ」
　　　　ジョー「まぁ俺はこの通りの流れ者だし、俺にくっついてきたって別に…」
　　　　みふね「いいよ。捨てられたって…慣れてるもん」

　　　　ジョーは女将に大根と包丁を持ってこさせ、みふねに大根のカツラむきを見せる。板前の修行を
　　　　していたというジョー。薄くむいた大根を新聞紙の上に乗せるみふね。

　　　　みふね「うわー、凄い。字が読めるよ」

　　　　なぜ板前の修行を辞めたのかという話になる。

　　　　みふね「やめなきゃ良かったんだよ。正直なんだね、あんたって」
　　　　ジョー「正直？」
　　　　みふね「そうだよ。昆布獲りだっておんなじことばっかりやっててつまんないけど、みんなやっ
　　　　　　　　てるよ。学校の先生だってサラリーマンだって、みんなゴマかしてやってるもん」
　　　　ジョー「ゴマかしてねぇ…」
　　　　みふね「そうだよ」
　　　　ジョー「正直モンかぁ」
　　　　みふね「そうだよ」
　　　　ジョー「おめえってやつは本当に変わってるぜ…」

　　　　そこへ宏が寄宿舎から抜け出したという電話が入り、ジョーは宿を飛び出して行く。宏がゼブラ
　　　　号という最新式の自転車に乗らなければ、やはり勝てないと言い出すので、ジョーはその資金、
　　　　5万円を作る約束をしてしまうが、借金のあてはない。由美に金を借りようとするが、由美はジ
　　　　ョーが競輪に関わるのをやめて落ち着くのなら（…ある種の愛の告白ですね）貸すというので口
　　　　論に。

◆

　　　　…競輪場で予想屋の口上のマネ（“硝子のジョニー”の歌詞を覚えていることもそうですが、こ
　　　　ういう人は妙な部分で優れた記憶力を示す場合があります。ここはそういう描写なのでしょうね
　　　　）をしているみふねの前に秋本が現われる。

　　　　みふね「さあさあ、ハズレ車券は鼻もかめねえぞ。ホンメ（本命）はいらないよ、ホンメは。裏
　　　　　　　　だの押さえだの、しち面倒くさいことは一切言わねえ。昨日の雨で神経痛の木村なんか
　　　　　　　　、×××（ここは差別用語が入っているらしく音声カット。足が不自由だというような
　　　　　　　　表現のようです）。おう、そこの焼酎野郎、ちょっとこっち来い。…（次のセリフを思
　　　　　　　　い出そうとする）…カアちゃんや子供を泣かすのは邪道ってもんだ。たまには土産をた
　　　　　　　　んまり買って…」
　　　　秋本　「えろう探したで。行こうか」

　　　　レースを見ているジョーを必死に呼ぶみふね。ジョーがやってきて秋本とモメそうになるが、そ
　　　　こへ警官が。秋本はいわば人買いなのでバツが悪いのか、その場を去る。再びレースの見物にジ
　　　　ョーが戻ると、また秋本がやってくるので、みふねは宿へ逃げ帰る。ジョーは顔見知りの天狗食
　　　　堂の主人（千代田弘）を訪ねたり、借金に奔走するがダメ。由美の店に来たおきくが借金話を持
　　　　ちかけるが、ジョーは怒っておきくを突き飛ばす。どうやらおきくの店にみふねを身売りさせる
　　　　話だったようだ。ジョーの金策にも着いて回るみふね、ある店でまたもや秋本と出会ってしまう
　　　　。そこで秋本の口からみふねを買ったと聞かされるジョー。

　　　　みふね「お願い、捨てないで。この人に渡さないで。ジョニー…」
　　　　ジョー「！…」
　　　　秋本　「男に会うたら誰にでもそない言うねん。自分を助けてくれると信じてんねや。どないか
　　　　　　　　してるで、頭が」

　　　　殴り合いになるジョーと秋本。ジョーは店の椅子で秋本を殴りつけ、みふねと逃げる。

　　　　…別の店でかき氷を注文するジョーとみふね。そこでは和子が店員をしている（ただしジョーは
　　　　彼女と宏との仲は知らない）。

　　　　ジョー「どうして隠してた？」
　　　　みふね「何を？」
　　　　ジョー「売られたことをさ」
　　　　みふね「もう嫌いになった？」
　　　　ジョー「…」
　　　　みふね「しょうがないよ、嫌いになったって」
　　　　ジョー「食べなよ。氷が溶けるじゃないか…」

　　　　そこへ宏がやってくる（和子に会いに来たはずの宏は驚く）。競技中の事故でレースの予定が変
　　　　更になり、小樽の競輪場へ行かされることになったという。ジョーは出発の夕刻までに必ず5万
　　　　円を作るという約束をしてしまう。みふねは、食べずにかき混ぜていたかき氷の氷を手でつかみ
　　　　、自分の腕にこすりつける。

　　　　みふね「汚なかないよ。汚れてなんかいないよ…」

◆

　　　　しかし、ついにおきくの店にみふねを売る電話をかけてしまうジョー。みふねを騙し騙しおきく
　　　　の店に連れていく（トンカツを食べさせてやると言う。でもトンカツは口に合わなかったのか、
　　　　みふねは口に入れるけれど、マズそうに皿に出してしまう。これも芦川さんらしくない絵柄です
　　　　ね）。一人、部屋に残されたみふねは、店の中をうろついて、ある部屋を覗き、女性と寝ていた
　　　　客（榎木兵衛）に怒鳴られる。

　　　　客　　「バカヤロー！、常識のないこと、すんな！」（…買春をしているくせに。笑）

　　　　ジョーは金を受け取るが、老獪なおきくは3万円しか渡さない。それでも仕方なくジョーは店を
　　　　出ていこうとするが、みふねに見つかってしまう。みふねには表には秋本がウロウロしているか
　　　　ら、この店にいるように言いきかせ、午後6時に競輪場に来るようにと話す。ジョーの腕を強く
　　　　噛むみふね。

　　　　みふね「もう嘘はつけないよ。嘘ついたら、そっから腐って死んでしまうよ。もう行ってもイイ
　　　　　　　　よ。平気だよ」

　　　　ジョーは罪悪感に苛まれながらも店を出ていく。途中、由美の店に立ち寄る。

　　　　由美　「ここに5万あるわ。これ、あげるから、そんなことだけはしないでよ。あの子を騙すな
　　　　　　　　んて…そんなことしたら、あんたがダメになっちゃうんだよ」

　　　　午後6時が近付いたことをおきくの店の女（北出桂子）から聞いて知ったみふねは、座敷（飲ん
　　　　でいる客の中には、榎木兵衛さんや光沢〔後に光〕でんすけさん、峰三平さんなどがいます）を
　　　　こっそり抜け出し、着替えて店を出て行こうとする。店の他の女たち（重盛輝江〔後にてる江〕
　　　　、本間節子、他）は、みふねに早くも客が付いて外へ連れ出されて行くのかと思い、疑わない（
　　　　笑）。ハズレ車券の舞い散る競輪場でジョーの名前を呼び続けるみふね。その頃、ジョーは宏と
　　　　ともに列車に乗っている（和子も少し離れた場所に乗っている）。何とも心苦しいジョーはヤケ
　　　　酒をあおる。同じ頃、由美の店で秋本は、以前女性を世話した店の女将（鈴村益代）からの電話
　　　　を受けている。秋本がこの店に斡旋したけれど自殺した女・〔キョウコ〕の兄（玉村駿太郎）が
　　　　、彼を付け狙っているというのだ。

◆

　　　　…やはりハズレ車券が舞い散る競輪場。

　　　　みふね「来るよ…来るよ…」

　　　　ジョーが現われるのを信じて、立て膝をして座り込んでいる（この恰好がまた可愛い！）みふね
　　　　が、泣きながら“硝子のジョニー”を歌っている。歌詞が、♪いつかは、消え…という部分にな
　　　　った時、口笛とともに秋本が現われる。仕方なしに連れていかれるみふね。しかし駅のホームで
　　　　秋本は、先般、電話で聞かされていた、自殺した妹の仇を討とうとする男に襲われる。左胸の肩
　　　　に近いあたりを刺された秋本は土屋外科医院に収容される。みふねは医院へ秋本のカバンを届け
　　　　て（そこがまた彼女の無垢なところなんですね）逃げるが、怪しんだ警官（阪井幸一朗）に捕ま
　　　　り、秋本の病室へ連れてこられる。苦しそうな秋本を見て、無垢なみふねは、可愛そうになった
　　　　のか、ヤカンで水を飲ませてやる。刑事（中台祥浩）が、みふねに問う。

　　　　刑事　「おい、この男とどういう関係なんだ？」
　　　　みふね「友達！」
　　　　刑事　「だからどういう友達なんだ？」
　　　　みふね「古い友達！」

　　　　そして何か思い立ったように、みふねは刑事に、

　　　　みふね「ここにいてもイイ？」
　　　　刑事　「え？」
　　　　みふね「この人、見てあげたいの。あたしがいないと死んじゃうのかも。ね、イイでしょ。お願
　　　　　　　　い」

　　　　…然別〔シカリベツ〕の駅（函館本線の余市の二駅手前の駅）で目覚めたジョーは、宏がいない
　　　　ことに気付く。“恋人と暮らすために金も貰っていく”というような内容の置き手紙を読むジョ
　　　　ー。走り始めた列車の横を和子とともに走り去る宏。追いかけようとするが、デッキで車掌に取
　　　　り押さえられてしまう。宏に裏切られ、呆然となるジョー。

◆

　　　　…意識を取り戻した秋本。

　　　　秋本　「何で嘘ついたんや？」
　　　　みふね「え？」
　　　　秋本　「何でほんまのこと、言わへんねん？」
　　　　みふね「（泣く）」
　　　　秋本　「駅で逃げられた思とったのに」
　　　　みふね「逃げたわ…だけどカバンがあったもん」
　　　　秋本　「カバンなんてどうでもええやないか」
　　　　みふね「（天使のような満面の笑顔が素晴しい！）」
　　　　秋本　「おまえはもう自由や。どこへでも行きィな」
　　　　みふね「イヤだよ。治るまでおるよ」
　　　　秋本　「アホやな、治ったら俺は刑務所行きや。家へ帰ンな」
　　　　みふね「イヤ…イヤだよ」
　　　　秋本　「帰れ」

　　　　…その頃、由美の店に茫然自失になって現われたジョー。その夜、ジョーは由美を思わず抱いて
　　　　しまう。その後、ボンヤリと由美の元で暮らし始めるジョーの姿が写し出される。由美は何だか
　　　　嬉しそうではある（この間、セリフは聞こえない）。しかし、いつしかジョーは由美の元を去り
　　　　、船に乗る。包丁を取り出し、甲板を叩くジョー…。

　　　　…ある日、秋本の病室に、買ってきたものなのか、ギターを抱えて入ってくるみふね。秋本はギ
　　　　ターで“硝子のジョニー”を弾き語る（相当うまい…当たり前ですが。笑）。

　　　　秋本　「この歌、誰に教わったんや？」
　　　　みふね「知らない人…自分で作ったんだよ、その人。詩人だと言ってたよ。詩人って何する人？
　　　　　　　　」
　　　　秋本　「心の綺麗な人や…」
　　　　みふね「ふーん…あたし、お父ちゃんに捨てられた時、いつも泣いてたの、海へ行って。そした
　　　　　　　　らその詩人さんがね、涙を拭いてくれて、“泣かなくてもイイ、そのうち君を幸せにし
　　　　　　　　てくれる人がきっと現われるよ”って、この歌、教えてくれたの。だから私、“♪ジョ
　　　　　　　　ニーよ、どこに”ってとこが一番好きだよ」
　　　　秋本　「…」
　　　　みふね「…その次の日、また海で会ったんだよ。だから“ガラスのジョニーって、どんな人？”
　　　　　　　　って聞いたんだよ。そしたらねぇ、“ガラスっていうのは、透き通っていて、とっても
　　　　　　　　綺麗だろ。だけど、みんなが大事にしてあげないと、すぐ壊れちゃうだろ。長生き出来
　　　　　　　　ないんだよ”って。“死んじゃうの？”って言ったら、“そうだよ”って。そう言った
　　　　　　　　ら、あの人…あの人、海ン中へ入っていっちゃったんだよ。いくら呼んでもどんどん入
　　　　　　　　っていって…（涙声になる）…頭だけがいつまでも見えてたよ。あたしが呼んだら、振
　　　　　　　　り返ってくれたよ。笑おうとしたんだよ。そしたら…そしたら大きな波が来たんだよ。
　　　　　　　　あたしを捨てて行っちゃったんだよ…（泣く）…みんな、あたしを捨てて行くんだよ。
　　　　　　　　イヤだよ。捨てちゃ、イヤだよ」
　　　　秋本　「…俺も捨てられた男や…」

　　　　秋本は自分のことを話し始める。彼は元はレコードも出したほどの歌手だったらしい（だから歌
　　　　がうまいわけで。笑）。しかしある日、家へ帰ると、妻が消えていたという。何も手につかない
　　　　まま、仕事も捨て、妻の行方を追い求めている間に女衒のような仕事に付き、それで女性に復讐
　　　　をしているつもりなのかもしれないと吐露する。しかし刑事がやってきて、“ギターが弾けるく
　　　　らいなら治ったんだろう”と、警察への連行を匂わせる。秋本はみふねに家に帰るように言う。
　　　　しかし、みふねはそれをイヤがる。

　　　　秋本　「何で帰れへんねん？。俺、ジョニーやないで」

　　　　秋本の帰りを待つというみふね。秋本はみふねを納得させるため、“おじいちゃんになったら（
　　　　刑務所から）出てくる”と言い聞かせる。しかしそこへ秋本の知り合いからの伝言が届き、元の
　　　　妻が小樽にいるらしいと判明する。みふねが外出したスキに秋本は警官を倒し、医院を抜け出し
　　　　ていく。部屋へ戻ってきたみふねは、また捨てられたと泣き叫び、ギターを叩き壊す。

　　　　 ◆

　　　　…秋本は元の妻がいるらしい、小樽のバー“モンパル”へ（ここで石原裕次郎さんの“憎いあン
　　　　ちくしょう”が流れる）。外から店に電話を入れるが、ママ？（森みどり）の話では、どうやら
　　　　いないようだ。市場に座っているみふねは、通りがかりの商人が落としていったリンゴをかじる
　　　　。やはりその頃、ジョーは、ある食堂で調理人として働いていた。しかしそこで客の中に宏を発
　　　　見、調理場から店に出て行く。ジョーの手にある包丁を見て、宏は慌てて謝り始める。女にも逃
　　　　げられたという。宏の哀れさに何も言わず立ち尽くすジョー。秋本は流しをしながら夜の女（朝
　　　　香奈緒美）に写真を見せたりして、元の妻を探し歩いている。ある店で“さいはての海”を歌っ
　　　　ていると、ついに元の妻・千春（桂木洋子）と出くわす。驚く千春。

　　　　千春　「殺さないで。お願い。許して…」
　　　　秋本　「一つだけ教えてほしいんや。何で逃げたんや？」
　　　　千春　「怖かった…。あなたが…狂おしいように私を愛したあなたが…」

　　　　酔客が歌の続きをうながすので、秋本は歌い始める。何もかも吹っ切れたような表情で。♪あて
　　　　どなくさすらい、あてもなくさまよう…という歌詞が空しい。

　　　　…道ですれ違った男をジョーだと勘違いしたみふねは、その男たちに修道院にでも行くようにと
　　　　からかわれる。それを真に受け、鐘の鳴り響く修道院を訪ねるみふねだが、あいにく誰も出てこ
　　　　ない。

　　　　みふね「ジョニー…どこにいるの？」

　　　　疲れて海岸（NOBOさんからの情報では、この海岸は、『夕陽の丘』のエンディングで石原裕次
　　　　郎さん扮する主人公が、浅丘ルリ子さん扮するヒロインを残して去っていく海岸と同じ場所）に
　　　　横たわるみふね、沖を眺める。涙が溢れてくる。

　　　　みふね「か…かあちゃん…うちに帰りたいよ」

　　　　あれほどイヤだった故郷ではあるが、稚内に帰ろうとするみふね。駅員に稚内の方向を訪ね、何
　　　　と線路の上を歩いて行く。

◆

　　　　…女（漆沢政子）を抱いても空しいジョーは、食堂の物干し場で仕事をサボって寝転んでいる。
　　　　雨が降ってくる。そこの女将（高山千草）に文句を言われようと、雨に濡れながらも何も思わな
　　　　いジョーだが、みふねに噛まれた腕のキズを無意識のうちに撫でているようだ。その頃、秋本は寝
　　　　ながらうなされている。ハッと目覚め、みふねが病室で飲ませてくれたように、ヤカンから水を
　　　　飲む。ジョーと秋本は何かに突き動かされるような気持ちになったようである。

　　　　…夜。線路を歩くみふねの正面に蒸気機関車が迫ってくる。その灯りに引き寄せられるように歩
　　　　くみふねだが、線路に倒れてしまう。蒸気機関車は急停車する。みふねは助けられ、その人たち
　　　　の好意で稚内に送り届けてもらうことに。

　　　　…ジョーと秋本もそれぞれ稚内を目指している。みふねはフラフラしながらも、ついに実家に戻
　　　　ってくる。しかし近所のおばさん（三船好重。よしえの母？）の話では、数日前に人身売買をし
　　　　たということで警察にとがめられ、家族はどこかへ逃げてしまったという。みふねはその場に倒
　　　　れ込んでしまう。おばさんは医者を呼びに走る。その間に意識を取り戻したみふねは、

　　　　みふね「ジョニー…」

　　　　と、つぶやき海のほうへ向かう。その後、ジョー、そして秋本も現われる。おばさんが医者を連
　　　　れてくるが、みふねはいない。海岸に立つみふねは、自分を呼ぶ声を耳にするが、

　　　　みふね「ジョニー…」

　　　　と、手を沖のほうに差し伸べる…。

◆

　　　　…ジョーと秋本が海岸にたどり着くと、波打ち際にみふねの靴が残されている。何度も何度もみ
　　　　ふねの名前を呼ぶ二人。

　　　　ジョー「みふねー！。俺が…俺が戻ってきたんだー！。俺を捨てないでくれー！。どこへも行か
　　　　　　　　ないでくれー！。どこへも行かないでくれ…」

　　　　波打ち際に座り込んだ二人。秋本は無言のまま、沖を見つめている。ジョーは砂を地面に叩き付
　　　　けている。しかし男たち二人はいつしか立ち上がり、左右それぞれ別の方向に別れていく。画面
　　　　は、海へ流れ込む陸からの水の流れと波打ち際だけを残し…終。

◆ ◆ ◆

　　　　…無垢な、そしてまさにガラス細工のようなヒロインに扮した芦川いづみさんの演技は秀逸で、
　　　　それこそ天使のような人物像を体現しています。演技力のある芦川いづみさんだからこそ出来た
　　　　役かもしれません（ただし前述しましたが、数カ所、素の芦川さんが出ているように思える部分
　　　　があります。つまり若干知能が劣っているようには見えないシーンが）。ピエトロ・ジェルミ監
　　　　督による、ジュリエッタ・マシーナ＆アンソニー・クィン主演のイタリア映画『道』のパクリだ
　　　　と言う人もいますが、単に若干知能の劣る娘が最後に死ぬというのが同じだというだけで、決し
　　　　てパクリだとは思えないのですが。何より、ジュリエッタ・マシーナさんと芦川いづみさんの美
　　　　貌の差が…（笑）。また由美子さんからの情報では、美術監督の木村威夫さんの著書《わが本籍
　　　　は映画館》には、ラストシーンは実は二種類あって、その二本のフィルムを何度もかけながら、
　　　　上層部との論議が続いた…と書かれているようです。もう一つの結末はどうなっていたのでしょ
　　　　う？（こういうディレクターズカットというか、別バージョンを見せてもらいたいものです）。
　　　　当時の《キネマ旬報》の作品紹介では、まだ未定だった時点で見切り発車のプレスシートの記事
　　　　を掲載したのか、実際の作品とは全く違うラストシーンが紹介されています。“（前略）～ひとり
　　　　残されたみふねは、苦労を重ねてようやく稚内へ辿りついたが、母や妹たちはどこへ行ったか判
　　　　らない。奇しくも、ジョーと秋本がこの土地へやってきた。この浜はむかし、ある詩人が「ガラ
　　　　スのジョニー」の唄をみふねに教え、海に身を投げた場所である。心の中のジョニーを求めてみ
　　　　ふねが海に入ったとき、ジョーが救った。「もう放さねえ。俺にはお前がいるんだ」とジョーは
　　　　叫んだ”…これが、もう一つのラストシーンなのでしょうか？。その証拠に、以下の画像を見て
　　　　ください。

▲（有）編集プロダクション映芸刊《映画芸術》2003年夏号（404号）より

　　　　作品の中では、ラスト、芦川いづみさんと宍戸錠さんが顔を合わせるシーンはありませんが、こ
　　　　こでは宍戸錠さんが芦川いづみさんを抱きかかえています。つまり、ヒロインが助けられるバー
　　　　ジョンも撮影されていたわけです。とにかく、たまには拳銃を撃たない日活映画に接することも
　　　　イイのではないかと思いますね。

LAST UP DATE ◆ 2009年10月26日