1963年『野獣の青春』

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　1963年『野獣の青春』　

　　　　★ここでは、クレジットタイトルの採録とともに、各作品を詳細に解説します。過去に出された
　　　　　文献も参考にしながら、Web＠作者が2009年8月5日以降に検証した結果をまとめています。
　　　　　もちろん抜けもあり誤認も含まれているかとは思いますので、あくまでも作品を楽しむための
　　　　　参考としてください。新たな情報をお寄せいただきたいと思います。
　　　　　※当Webの恒例の方式により、“？”の付いている情報は、確定出来ていないものだと考えて
　　　　　ください。“？”の数により曖昧さが増します（笑）。また、“〔カタカナ〕”という表記は
　　　　　漢字表記が確定出来ない名称の表現です。カッコのないカタカナ表記は、そのままで正しいと
　　　　　考えてください。

◆

　　　　　監督：鈴木清順　企画：久保圭之介　原作：大藪春彦（新潮社版「人狩り」より）　
　　　　　脚本：池田一朗、山崎忠昭　撮影：永塚一栄　照明：大西美津男　録音：中村敏夫
　　　　　美術：横尾嘉良　編集：鈴木晄　助監督：渡辺昇　音楽：奥村一　色彩計測：上田利男
　　　　　特殊技術：金田啓治　現像：東洋現像所　製作主任：武藤良夫

◆

　　　　　宍戸錠　…水野錠次
　　　　　　　　　　　　（竹下刑事の死の真相を追う元・神戸の刑事。結核だった妻を亡くしている）
　　　　　渡辺美佐子　…竹下くみ子（竹下刑事の妻）
　　　　　川地民夫　…野本秀夫（野本達夫の弟。サディスト）
　　　　　香月美奈子　…三浦佐和子（キャバレー“ベビードール”？のマダム）
　　　　　平田大三郎　…柴田勝（石山洋介の部下）
　　　　　郷エイ治　…武智茂（三光組の組員）
　　　　　上野山功一　…久野正男（野本興行の幹部でキャバレー“ベビードール”？の支配人）
　　　　　小林昭二　…野本達夫（野本興業の社長。弟同様にサディスト）
　　　　　木浦佑三　…峰岸武郎（三光組の組員）
　　　　　星ナオミ　…桂子（武智茂の愛人）
　　　　　河野弘　…本間清三（野本興行の子分で兄貴分）
　　　　　江角英明　…三波五郎（野本興行の子分で錠次の世話係になる拳銃マニア）
　　　　　玉村駿太郎　…前田彰一（三光組の組員）
　　　　　鈴木瑞穂　…広川（警視庁刑事部捜査四課の刑事）
　　　　　山田禅二　…藤田（三光組と関係のある藤田不動産の社長）
　　　　　阿部百合子　…秀に麻薬をねだる麻薬中毒の女
　　　　　木室郁子　…キャバレー“ベビードール”？のNo.1ホステス（錠次に氷をかけられる美人）
　　　　　柳瀬志郎　…石崎健（野本興行の子分。左手がない）
　　　　　青木富夫　…松井輝三（三光組の組員）
　　　　　木島一郎　…竹下公一（女と心中する警視庁刑事部捜査四課の刑事）
　　　　　三木正三　…武島哲次（野本興行の子分）
　　　　　花村彰則　…大島（部長刑事）
　　　　　久松洪介　…山口（刑事）
　　　　　野村隆　…パトカーで武智茂の住む弥生アパートに駆けつける警官
　　　　　三浜元　…パトカーで武智茂の住む弥生アパートに駆けつける警官
　　　　　黒田剛　…森川時男（三光組の組員）
　　　　　光沢でんすけ（後に光でんすけ）　…
　　　　　二階堂郁夫　…駅前で錠次に袋だたきにされる野本興行のチンピラ
　　　　　緑川宏　…辻三次郎（石山洋介の部下）
　　　　　漆沢政子　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のホステス
　　　　　山口吉弘　…乾太郎（野本興行の子分）
　　　　　赤司健介　…錠次が“紫クラブ”に代わりに電話をかけてもらう青年
　　　　　糸賀靖雄　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のボーイ
　　　　　高緒弘志　…野村（刑事）
　　　　　織田俊彦　…日比谷ホテルのフロント係
　　　　　高瀬将敏〔技斗〕
　　　　　信欣三　…小野寺信介（三光組の会長）
　　　　　清水将夫　…石山洋介（神戸の麻薬組織の元締め）
　　　　　金子信雄　…小沢惣一（野本興行の専務）

　　　　　以降、主なクレジットなしの出演者

　　　　　井田武（後にいだたけ志）　…竹下公一が心中した“やまとホテル”を覗き込む野次馬
　　　　　雨宮美智子　…冒頭、街頭ジュークボックスの前にたむろする不良少女
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（赤い服に濃紺のネッカチーフ姿の女性）
　　　　　本間節子　…冒頭、街頭ジュークボックスの前にたむろする不良少女
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（淡いブルーのジャンパーを着た女性）
　　　　　和田美登里（後に和田みどり）　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のホステス
　　　　　川口道江　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のホステス
　　　　　立石日佐子　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のホステス
　　　　　武内悦子　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のホステス
　　　　　樽井釉子？　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のホステス
　　　　　西原泰江？　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？のホステス
　　　　　新津邦夫　…野本興行のキャバレー“ベビードール”？の客
　　　　　河瀬正敏　…野本に渡す上納金に文句を言う野本興行の下部組織の男
　　　　　二木草之助　…野本に渡す上納金に文句を言う野本興行の下部組織の男
　　　　　澄川透　…野本興行の下部組織の男
　　　　　荒井岩衛　…野本の子分
　　　　　東郷秀美　…日比谷ホテルの受付
　　　　　　…竹下刑事の四十九日の法要のために竹下家を訪れる制服の警官？〔二役〕
　　　　　根本義幸？　…三光組の組員
　　　　　北出桂子　…三光組の事務所で武智茂といちゃつく女
　　　　　本目雅昭　…竹下刑事の四十九日の法要のために竹下家を訪れている制服の警官
　　　　　小柴隆（後に小柴尋詩）　…竹下刑事の四十九日の法要のために竹下家を訪れている私服刑事
　　　　　玉井謙介　…竹下刑事の四十九日の法要のために竹下家を訪れている私服刑事
　　　　　八代康二（後に八代康次）？
　　　　　　…竹下刑事の四十九日の法要のために竹下家を訪れている私服刑事
　　　　　辻野房子（後に萩玲子）？　…錠次がある女のことを尋ねるホステス
　　　　　千代田弘　…小野寺に脅されているパチンコ店の社長
　　　　　中平哲弥（後に中平哲仟）…　三光組の組員
　　　　　水森久美子？　…錠次と広川が会話する横を通る赤い服に白い帽子の女性
　　　　　晴海勇三　…石山洋介の部下
　　　　　守屋徹　…やまとホテルの前で錠次と三波に拉致される松井輝三を見るカップルの男性
　　　　　三笠鉄郎（後に池沢竜）？　…武智が住む弥生アパートの管理人？
　　　　　岩手征四郎？　…　三光組の組員

◆ ◆ ◆

　　　　　●作品を紹介します。いかにも鈴木清順監督作品らしいお遊びが各所に出てきますが、それが
　　　　　あまり目をむいていないので、逆に日活映画というものの雰囲気から逸脱していなくてイイの
　　　　　ではないか？…とWeb＠作者個人は思うのですが。

◆ ◆ ◆

　　　　　…キャンバス地のタイトルバックに題名が出るが、“の”の文字だけが赤い。クレジットが流
　　　　　れ、刑事とコールガールの松本タミ子が心中したらしい連れ込み宿“やまと旅館”で現場検証
　　　　　をする警察関係者たち。モノクローム画面だが、クレジットの文字だけはセルリアンブルーの
　　　　　ような青色。

　　　　　山口刑事「いったい、何をしていた男なんだろうな…」

　　　　　モノクローム画面の中、片隅の花瓶の椿の花だけが赤く色付く（いかにも鈴木清順演出？）。

　　　　　…街で通称“ジョー”こと水野錠次（宍戸錠）が、チンピラどもに喧嘩をふっかけ、次々と倒
　　　　　していく。そしてこの街の新興ヤクザ組織・野本興行が営むキャバレーへ行き、大勢のホステ
　　　　　スを指名して、大盤振舞。その様子を店の奥にある秘密の部屋から見ている、野本興行の専務
　　　　　である小沢惣一（金子信雄）や、組の幹部で店の支配人である久野行男（上野山功一）、野本
　　　　　社長の愛人・三浦佐和子（香月美奈子）たち。店内の壁の鏡の部分がマジックミラーになって
　　　　　いて、裏側から客の様子が見渡せるのだ（店内から繋がっているスピーカーの音を切ると、ガ
　　　　　ラスの向こうの大騒ぎの絵柄に反して、この部屋の中だけに沈黙が漂い、妙な雰囲気です）。
　　　　　やたら景気の良さそうなジョーを見て、

　　　　　小沢　「うまい遊び方をするじゃねえか」
　　　　　久野　「いい客です。もう軽く七万は使ってます」

　　　　　実は天井部分もマジックミラーで、玄関ホールを出入りする客の様子も見える（足元から見上
　　　　　げた絵柄。これも鈴木清順演出らしい絵的なお遊び？）。昼間、ジョーにやられたチンピラ（
　　　　　二階堂郁夫）が、「あの男じゃねえのか？」と聞かれ、そうだと確認する。その頃、ジョーは
　　　　　相手にしてくれないNo.1ホステス（木室郁子）のドレスの中に氷を入れたりして、店の男た
　　　　　ちにつまみ出されそうになる。ついには銃を突き付けられホールドアップ。その一部始終を見
　　　　　ていた小沢たちの元へ連れてこられ、殴られるが、隙をみて反撃、兄貴分の本間清三（河野弘
　　　　　）の銃を奪う（その間も、ずっとマジックミラーの向こう側では、何事もない様子で、ほとん
　　　　　ど裸の女性のフロアショーが開かれているのも面白い雰囲気）。小沢はジョーの腕っぷしを気
　　　　　に入り、契約金として百万円、月収二十万円で雇うことにする。そこでジョーは、社長である
　　　　　野本達夫の屋敷へ案内される。

◆

　　　　　…怪しげな雰囲気の漂う洋館。豪奢な調度品に囲まれている社長の野本（小林昭二。東宝映画と
　　　　　いう雰囲気がしますが。笑）は、いつも猫を抱いている紳士然とした温厚そうな男だが、実は
　　　　　サディストである。猫を抱いたまま野本が投げつけたナイフをジョーがかわす。

　　　　　ジョー「あんた、殺し屋かい？。この分じゃ、ハジキの方も早えんだろうな…」
　　　　　野本　「ハジキなんて頼りないもんはゴメンだね。肝心の手応えがないからな。こいつ（ナイ
　　　　　　　　　フ）に限るよ、こいつに…」

　　　　　と、別のナイフの刃を猫の背中で磨いて、微笑みながら、

　　　　　野本　「おまえも（銃を）しまったらどうだい…」

　　　　　その間にジョーは銃を素早く抜いていたのだ！（笑）。周りにいる幹部の三波五郎（江角英明
　　　　　。舌足らずな口調でニタニタと笑っている怪しい奴）や石崎健（柳瀬志郎）もポケットに手は
　　　　　入れている。

　　　　　ジョー「俺は背中から撃たれるのが嫌いなんでね。さぁ、ハジキから手を放してもらおうか」
　　　　　三波　「いい目だ。じゃ、一緒に…」

　　　　　ジョーと三波が同時に銃を投げ出すが、何と三波は、もう一丁の銃をトボケて出して見せ、

　　　　　三波　「こういう駆け引きはまだまだ若いねぇ」

　　　　　だがジョーが左手の帽子を落とすと、その中には同様にもう一丁の銃があり、「残念でした」
　　　　　となる（笑）。また、実は石崎は片腕で、元々、服の袖をポケットに入れていただけだったの
　　　　　だが、それをバカにされたと思い、ジョーを一発殴るので、周囲になだめられる。服装にも無
　　　　　頓着な三波は、身だしなみもお洒落なジョーに対して、ネクタイくらいするように野本に叱ら
　　　　　れる。彼は相当なガンマニアであるため、銃の扱いに関して、ジョーに親近感を抱く。酒をあ
　　　　　おるジョーが三波にも勧めるが、彼は「俺は酒も女もダメなんだ（インポテンツらしい）」と
　　　　　話す。

◆

　　　　　…三波はジョーの世話役となり、ジョーがそれまで泊まっていた日比谷ホテルに同行して大き
　　　　　なトランクを引き取り、新しく用意されたトモエマンションへ。何とトランクの中には様々な
　　　　　銃器が入っているので、三波の目が輝く。手入れを始めるジョー、三波が無言で触ろうとする
　　　　　ので、それを制しながら、

　　　　　ジョー「商売道具だからな。毎朝、顔を洗うのを忘れても、こいつの手入れを欠かしたことは
　　　　　　　　　ないんだ」

　　　　　羨ましそうな三波に、ジョーが一丁やると言うと、三波は「…ジョー！…」と感激して、途端
　　　　　に仲良くなってしまう（笑）。この二人はコンビで取り立ての仕事をすることになる。
　　　　　ここで二人が日活の映画館の前を通ります。『どん底だってへっちゃらさ』と『雨の中に消え
　　　　　て』を上映中。ちなみに入り口の上の“映画は日活”の看板には、石原裕次郎さんや小林旭さ
　　　　　ん、浅丘ルリ子さんや芦川いづみさんなどの顔写真に混じって、宍戸錠さんの顔写真もありま
　　　　　す（笑）。
　　　　　…二人の写真が敵対する三光組の会長・小野寺信介（信欣三）の手元に届き、子分たちが出かけていく
　　　　　。小沢が支払うと言った百万円は取り立てた借金の中から渡すということになり（ズルい！）、
　　　　　貸し付け先の藤田不動産へ向かう。一人で事務所へ入ったジョーは、ヘアスプレーを噴射させ
　　　　　て、そのガスに火を付け、藤田社長（山田禅二）の頭に突き付けて（本当に髪に火が付いてい
　　　　　ます…笑）脅す。そこへ三光組の幹部・武智茂（郷エイ治）が、「ハイ、それまで」と、窓の
　　　　　外の物干し台から銃を突き付けてくる。どうやら藤田不動産は、三光組に守られているようだ
　　　　　。武智の引き連れてきた子分どもにジョーは殴られるが、突然、武智が子分たちに殴るのを止
　　　　　めるように言う。何と、物干し台の床の隙間から、三波がライフルの銃身を武智の股間に当て
　　　　　ているのだった（笑）。

　　　　　三波　「ジョー、仕事はさっさと切り上げようよ」

　　　　　…野本には弟の秀夫（川地民夫）がいるが、彼は女言葉まで使い、一見、優男に見えるが、実
　　　　　は兄同様、サディストで、コールガールたちを麻薬漬けにして、彼女たちの禁断症状を見て楽
　　　　　しむという悪趣味な男らしい。

　　　　　取り立てに成功したジョーは契約金を手に入れ、コールガールと心中した刑事・竹下公一（木
　　　　　島一郎）の家を訪ね、仏壇に金の包みを置いて帰ろうとする。竹下刑事はジョーが何かと世話
　　　　　になった男らしい。玄関先（ここの内装が民家なのにブルー一色！…笑）で竹下の妻・くみ子
　　　　　（渡辺美佐子）が電話に出る。くみ子は編物教室を開いていて、黄色いセーターの注文なのだ
　　　　　が、黄色い糸を切らしているので、赤ではダメかというような話をしている。この後、ジョー
　　　　　はある女のことをホステスたちに聞いて回る。

　　　　 ◆

　　　　　…ジョーがマンションへ戻ると、佐和子が待っていて、色仕掛けで、野本の新しい女（六番目
　　　　　の女らしい…笑）を殺してほしいと依頼する。佐和子の話では、竹下刑事と心中した女もコー
　　　　　ルガールで、野本の新しい女（顔は佐和子も知らない）というのが、そのコールガールたちの
　　　　　元締めだというのだった。ジョーはコールガールの斡旋をしそうな場所へ片っ端から電話をか
　　　　　け、その中の麻薬中毒の女から秀夫の存在を探りあてる。

　　　　　既に借金取り立てで三光組の恨みを買っているジョーは、マンションの駐車場で武智と子分に
　　　　　襲われる。持っていたコートを床に落とすジョー。銃を突き付けられ、武器を探られる。

　　　　　ジョー「どういうつもりなんだよ。定期身体検査か」

　　　　　武智が三光組へ連れて行こうとするので、

　　　　　ジョー「俺は根っからの自由人なんでね。人から強制されるのが何より嫌いなんだ」
　　　　　そして、
　　　　　ジョー「こんな所で撃つのか？。交番は近いし、アパートの真下だし」

　　　　　などと、せせら笑う。車に押し込まれたジョーは反対側のドアから車外へ出て、すばやく先ほ
　　　　　ど落としたコートの中に包んであったショットガンを持ち出し、武智のアゴに突き付ける。

　　　　　ジョー「この距離からだと、間違いなくおたくの顔はなくなるぜ」
　　　　　武智　「撃つなら撃て！。交番は近いし、アパートの真下だ」（ニヤッと笑う）
　　　　　ジョー「バカヤロー！、人のセリフを盗みやがって…」

　　　　　ジョーは形勢を逆転させて武智に三光組の事務所へと案内させる。そこは映画館のスクリーン
　　　　　の裏側にある（これも鈴木清順演出の趣味かな？。スクリーンには二本柳寛さんと青山恭二さ
　　　　　んの乗るモーターボートが追撃戦をしていたり、外人女性が出て来たり、小高雄二さんや水島
　　　　　道太朗さんも登場します。一本の作品からではないかもしれませんね）。ジョーは小野寺と相
　　　　　対する。二つの組織を相討ちさせるつもりのジョーは、野本の組を潰す手伝いを申し出る。武
　　　　　智がガラスの割れ目からジョーの背中を撃とうとすると、スクリーンの中で銃声がして驚く。
　　　　　間をハズされた武智が、もう一度ガラスの割れ目から覗くと、ボスが背中を向けているので撃
　　　　　てない（笑）。

◆

　　　　　…ジョーは三波から野本兄弟のことを教えられる。彼らの母親は、黒人兵相手のパ×パ×（一
　　　　　応、伏せておきます。売春婦）だったらしく、その件にふれられると怒るのだが、特に弟の秀
　　　　　夫は、そのことに関しては、カミソリで相手の顔をスダレのように斬り刻むことから、“スダ
　　　　　レのヒデ”とまで言われているらしいのだ。

　　　　　…秀夫が客席ごとに電話のあるテレフォン喫茶“紫クラブ”を根拠地にしていることを知った
　　　　　ジョーは、店内の離れた席から秀夫に電話をして、自分の代わりの男（赤司健介）を雇って女
　　　　　の世話を頼む。秀夫と電話で繋がったのを確認したジョーは、その後に秀夫が女を手配するた
　　　　　めに回す電話番号・416-1920を覚えておく。そして秀夫の席へ行き、「お前のおふくろは
　　　　　パ×パ×だって？」と挑発するので、秀夫はいきなり靴の中からカミソリを出し、ジョーに斬
　　　　　りつける。しかしジョーはそれをうまく避けるので、カミソリは倒れたテーブルの表面をガリ
　　　　　ガリとひっかく。そこへ野本たちが現われ、ジョーは拉致され、リンチを喰う。そして野本は
　　　　　怪しげな黄色い砂嵐の吹く中（鈴木清順演出爆発！）、佐和子を鞭で叩き、そして抱くという
　　　　　倒錯した愛情表現（？）を行なう（うーん…笑）。

　　　　　…野本の組が別の大組織から一千万円分の麻薬を買うことになっていると、小野寺に連絡する
　　　　　ジョー。その資金を奪えば、麻薬を売った組織と野本の組が争い、野本の組は潰されるだろう
　　　　　というわけだ。その算段を武智と打ち合わせた後、バスに乗ったジョーを警視庁捜査第四課の
　　　　　刑事・広川（鈴木瑞穂）が見つけて話しかける。

　　　　　…ジョーの回想。ジョーは元は神戸の刑事で、ヤクザの罠にハマって公金横領の罪で懲戒免職
　　　　　になったこと、その時、最後まで庇ってくれたのが、死んだ（心中に見せかけて殺された）竹
　　　　　下刑事であること、結核を病んでいたジョーの妻の病院の世話までしてくれたのも竹下刑事だ
　　　　　ったということ（ジョーの妻は後に死亡）、竹下刑事はジョーの追っていた事件を引き継いだ
　　　　　ので殺されたのだとジョーが確信しているということなどを観客ははっきりと知らされる。

　　　　　ジョー「目には目、歯には歯を…だ。殺した奴は殺す」

　　　　　と、復讐を誓うジョー。対立する新興ヤクザの野本興行と、ちょっと落ち目の三光組を一挙に
　　　　　潰し、その間に竹下の死の真相をも探ろうとしているのだった。ジョーを止めようとした広川
　　　　　だが、ジョーに殴られてその場に倒れてしまう。

　　　　　…麻薬取り引き。“矢切りの渡し”でヒバリが鳴いている。クラクションの数で合図して目的
　　　　　の車を襲う三光組の連中。この資金横取り計画は成功するが、ジョーが情報を洩したのではな
　　　　　いかと疑われる。麻薬の取り引き相手である神戸の麻薬組織の元締め・石山洋介（清水将夫）
　　　　　の部下である柴田勝（平田大三郎）が刑事時代のジョーの顔を覚えていたのだ。その頃、三光
　　　　　組の事務所（ここでスクリーンには裏返しだが“信欣三”というクレジットが出る映画の予告
　　　　　編が写るという、実に細かいギャグあり。作品は『けものの眠り』のようです）で金を受け取
　　　　　るジョー。続いてコールガールと待ち合わせるジョーだが、野本たちがマンションで待ち受け
　　　　　ている。拷問にかけられる（ツメの間にナイフを突っ込まれるのをガラスの壁の反対側から撮
　　　　　るショットあり）が、本当に懲戒免職になった不良刑事だということが判り（それは事実なの
　　　　　で）、疑いは晴れる。ジョーは野本に、資金を奪ったのは三光組だと信じさせ、まず三光組の
　　　　　松井輝三（青木富夫）を捕まえてくる。彼の口から武智が怪しいということになる。

　　　　　…野本は三光組への復讐の手始めに、ジョーと三波、石崎を武智のアパート（天井や棚に飛行
　　　　　機のプラモデルが溢れている）へ向かわせ、彼の愛人の桂子（星ナオミ。白いネグリジェ姿…
　　　　　こういう役、多い！）を脅して待ち伏せる。ここでなぜか女嫌いだったはずの三波が桂子に惚
　　　　　れたらしく、無言で、やはり苦手なはずの酒をあおり、見張りの交代すらしないのが面白い。
　　　　　武智が戻ってくるが、ジョーはマッチの消しがらでマッチ箱にメモを書いて窓から落とし、あ
　　　　　らかじめ危険を知らせてやる。武智は非常階段から自室へ入り込み、石崎を撃つ。桂子が三波
　　　　　のライフルの銃口を持ち、撃たれてしまい、そこで武智と三波は向き合う。わずかの沈黙の後
　　　　　、二人は撃ち合う。要領よく身を隠していた無傷のジョーは重傷の三波を連れ出すが、警察が
　　　　　非常線を張るので、仕方なくくみ子の家へ逃げ込む。くみ子に自分と竹下との関係を話し、匿
　　　　　ってもらって、ガスコンロで焼いた包丁で三波の体から銃弾を摘出する。隙を見て、ジョーは
　　　　　小野寺に武智が殺されたことを電話で告げる。知らせを受けた野本たちがくみ子の家に来るが
　　　　　、野本は秀夫を見張りに残して、ジョーと三波を連れ帰る。

　　　　　野本の屋敷のそばでは野本興行と三光組が乱戦に。再びジョーに疑問を抱いた野本は、ジョー
　　　　　を逆さ吊りにして拷問する（ほんと、サディスティックな人…笑）。そこへ自暴自棄になった
　　　　　小野寺が爆薬を積んだ車で屋敷に突っ込むので、大爆発が起こる。廃墟のようになった屋敷で
　　　　　まだ逆さ吊りのままのジョーは、傷ついた野本と格闘することに。逆さ吊りのまま、テーブル
　　　　　の上の銃を取り、野本と格闘しながらも、まず本間を撃ち、ロープを撃って脱出する。銃で野
　　　　　本の指を一本ずつ撃ち（サディストにはサディスティックな仕打ちを？）、竹下とコールガー
　　　　　ルとの偽装心中の真相を白状させる。全てを知って去ろうとするが、瀕死の三波が野本を撃ち
　　　　　殺す。

　　　　　三波　「執念深いのは生かしといちゃイケねえ。ここがあんたの甘えところさ…」

◆

　　　　　…ジョーはくみ子のことを案じて、彼女の家へ向かい、秀夫に見つからないように忍び込む。
　　　　　しかし玄関にあった電話の番号から、くみ子こそが、野本の新しい愛人で、コールガールの元
　　　　　締めだったことを知る。何のことはない、くみ子の家にジョーと三波を引き取りに来た時も、
　　　　　ジョーに二人の関係を気付かせないために、野本はくみ子に会わず秀夫を残したのであり、ま
　　　　　たくみ子からの情報で、野本はジョーを怪しんでいたわけだ。ジョーが初めて訪れた時の、毛
　　　　　糸の色云々の電話も、女を手配する暗号の電話だったのだ。そのくみ子は室内で秀夫とカード
　　　　　ゲームに興じている。くみ子が台所に消えた間にジョーは部屋に入り、竹下を殺した犯人のこ
　　　　　とを語らせてから秀夫を殴って気絶させる。そして戻ってきたくみ子と対峙する。観念したく
　　　　　み子だが、彼女は、組織に脅されて操られていたのだと、今度はジョーをそそのかそうとする
　　　　　狡猾な女である一面を見せる（前半、貞淑で薄幸そうな雰囲気で登場してくるだけに怖い…笑
　　　　　）。ここで秀夫が目覚めたことに気付いたジョーは誘導尋問して、くみ子の口から、野本兄弟
　　　　　の母親が黒人兵相手のパ×パ×だったことを語らせる。その瞬間、ジョーはくみ子を室内に押
　　　　　しやって部屋を出て、扉を閉める。カミソリのアップ。…その後の顛末は何も写し出されず、
　　　　　実に暗示的で、くみ子の悲鳴すら聞こえませんが（ただし、一瞬、赤い光が室内で起こる）、
　　　　　元のラッシュではスダレのように斬られたくみ子の顔が写し出されたという話もあります。

　　　　　ジョーは警察へ電話をする。くみ子の告白を録音しておいたテープを受話器の横に置き、スイ
　　　　　ッチを入れて、電話の相手である広川刑事に聞かせる。去ろうとしたジョーがふと庭を見ると
　　　　　、椿の花がポトリと落ちて、椿の花の赤色だけを残して画面はモノクロームになる。終（この
　　　　　文字はやはりセルリアンブルーのような青色）。

◆ ◆ ◆

　　　　　…鈴木清順監督の色使いやセット、その他のお遊びが各所に見える佳作です。しかも、作品と
　　　　　しても面白い（笑）。宍戸錠さんと郷エイ治さんの兄弟対決というのも、意外に他ではあまり
　　　　　見られませんので、その点も一見の価値があるかもしれませんよ。

LAST UP DATE ◆ 2018年5月28日
★このコーナーは当Webを訪れてくださる多くの日活映画ファンの方の協力を得て、作成しています。
以上、当Webの資料とします。他のWebへの転載など、Web＠作者に無断で持ち出すことを一切禁止します。
使用する場合は必ずWeb＠作者の了解を得てください。誤った情報が含まれる場合もあり、その拡大を防ぐためです。