拳銃〔コルト〕は俺のパスポート

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拳銃〔コルト〕は俺のパスポート

　　　　ここでは宍戸錠さんのハードボイルド作品の傑作をご紹介。ただ主人公の持っている銃は、ベレ
　　　　ッタなんですけどねぇ（笑）。また、モノクロ作品なので、雰囲気があります。

◆ ◆ ◆

　　　　三発の銃声とともに（『ルパン三世』風？。笑）口笛のテーマ曲が流れてクレジットタイトル。
　　　　…豪奢な島津邸から車が出てくる。そしてそれを尾行する車中では、金子（本郷淳）が上村〔カ
　　　　ミムラ〕周治（宍戸錠）に説明を。島津（嵐寛寿郎）は関西から進出してきたヤクザ組織のボス
　　　　で、毎日時間通りに銀座の事務所へ向かうという。車の窓は防弾ガラス。事務所へ着いた島津を
　　　　反対側のビルの屋上から見る金子と上村。島津の横では用心棒の船木（深江章喜）が銃の手入れ
　　　　を行なっている。

　　　　金子「ここなぞ、狙うにはイイ感じなんでしょうがねぇ。あの（ビルの）窓も防弾ガラスです。
　　　　　　　それにあの船木という用心棒がご覧の通りベッタリくっついていますからね。あなたとし
　　　　　　　てもやりにくいでしょうな…」

　　　　島津が食事をするレストラン（船木が周りに注意する姿がプロっぽい）までにも尾行した金子と
　　　　上村は、彼らの事務所へ戻り相談を続ける。上村は金子のボスである関東の組織のボス・大田原
　　　　（佐々木孝丸）から島津を消す依頼を受けているのだ。島津は明後日に海外に行くので、それま
　　　　でに済ませてほしいという。半金と二人分のパスポート、飛行機のチケットを渡される。

　　　　金子「では残りの半金は仕事を終えた後、例の場所で。ただし約束通り、仕事をされたかどうか
　　　　　　　は確認されてから」
　　　　上村「なるべくあんたがたに判りやすいやり方でやるさ…」

　　　　金子の長い説明に「もうイイだろ、案内してくれ」と、射撃場に案内させる。そこには先客とし
　　　　て、サイレンサーを着けた銃を持つ殺し屋・三好（宮部昭夫）が。金子は上村に握手して別れよ
　　　　うとするが、振り返った上村の手にはすでに銃が。「ご、ご冗談を」と、金子は去っていく。無
　　　　言のまま、三好と競うようにして銃撃をする上村。

　　　　…その頃、上村の弟分である塩崎駿（ジェリー藤尾）は自動車工場から車を引き取ってくる。馬
　　　　力を上げただけでなく、後部座席にまでブレーキをつけたことを疑問に思う工場のオヤジ（榎木
　　　　兵衛）だが。

　　　　…島津の日課を確認しながら、上村は島津邸の庭の見えるマンションへ。賃貸契約の下見に来た
　　　　ような顔をして、管理人のオヤジ（中村是好）に金をつかませ、四階の部屋を見せてもらう。バ
　　　　ッグの中からバラバラのライフルを出して組み立てていく。タバコに火を着け、一服吸って、窓
　　　　の外に出して煙から風を計る。狙いをつけたスコープの中には、会見すると聞いていた大田原と
　　　　三好、島津と船木の姿が写る。茶室。茶碗を持った島津に向けたライフルが三発火を吹く。倒れ
　　　　る島津。慌てる船木も一発で仕留める上村（この間、小鳥のさえずりしか聞こえない）。急いで
　　　　薬莢を拾い、管理人には「一度はあんなところに住んでみたいものです」と鍵を返し、ビルを出
　　　　ていく。塩崎の車が待っていて、走り出すと、早速パトカーとすれ違う。

　　　　塩崎「教えてくれ。奴はどんなふうにくたばったんだい？」
　　　　上村「どうってことはねえ。いつもとおんなじだ」

　　　　車のスクラップ工場である株式会社日本カーベキューへ行き、顔見知りの工員（糸賀靖雄）に、
　　　　カバンに入ったままのライフルも渡し、車と一緒にスクラップにしてもらう。

　　　　塩崎「しかし勿体ねえなぁ…」
　　　　上村「あれでイイんだ。おまえはまだ若い。生きていたかったら、仕事に使った銃にいつまでも
　　　　　　　こだわっていちゃダメだ」
　　　　塩崎「それにしてもさぁ…」
　　　　上村「俺の指紋は指じゃねえ。俺は今、島津の腹の中にたんまり指紋を残してきた。その指紋を
　　　　　　　今、消した。それだけさ」

　　　　車に無線が入る。金子は大田原と一緒の時に殺せとは言っていないと怒っている。大田原まで警
　　　　察に呼ばれたためだ。

　　　　上村「あんたがたに判りやすいやり方でやると約束したはずだ」

　　　　半金を受け取ったら、すぐ高飛びして姿を消すよう指示される。

　　　　上村「望むところだ」

　　　　ドライブバンクで受付嬢（西原泰江）から金を受け取り空港へ。そこへ金子から島津組が待ち受
　　　　けているという無線が入る。しかし二人はそれを無視して空港へ（この空港の中には、新車・ト
　　　　ヨタ2000GTが飾ってあったりします）。アナウンスでも呼び出されるが無視して、エアフラ
　　　　ンス航空のカウンターバーにいるところを島津の子分（石火矢哲郎）に拉致されてしまう。自分
　　　　たちが乗ってきた車に乗せられ、連行される上村たち。またも金子から無線が入る。その隙に後
　　　　部座席のブレーキを踏むと、車は急停車！、敵の男たち（助手席の男に扮しているのは赤司健介
　　　　）は頭を打ってノビてしまう。無線の指示で横浜にあるというレストラン“なぎさ”兼モーテル
　　　　。“渚館”へ行くことに。そこで津川という男が力になってくれるという上村は“渚館”へチェッ
　　　　クインする前に埠頭から車を落とし水中に沈める。やはり証拠隠滅のためだ。

◆

　　　　…“渚館”では女将のお辰（武智豊子〔後に武知杜代子〕）に21号室の鍵を渡される。部屋へ
　　　　入るのにも物凄く用心深く（ドアを蹴ったりして）入る上村たち。

　　　　塩崎「おそろしく殺風景な部屋だな」

　　　　そこへ美奈（小林千登勢）という従業員の若い娘が入ってきて、淡々と枕カバーを変えたりする
　　　　。愛想のない陰気な娘である。

　　　　美奈「命が大事ならそこ（窓）はあけないほうがイイわ」
　　　　塩崎「え？」
　　　　美奈「去年の夏、窓をあけた途端に頭の真ん中を撃ち抜かれた人があったわ。あと三時間ほどで
　　　　　　　船に乗る若い男だったけど」

　　　　津川（内田朝雄）に電話を入れる上村。津川はこの一帯を仕切るヤクザのボスで、船による“逃
　　　　がし屋”を営んでいるようだ。大田原のほうからは船を斡旋するよう頼まれているのだが、そこ
　　　　へ島津組の幹部・千崎（江角英明）がやってくる。「奴らが来たら、これでひとつよろしく」と
　　　　封筒を差し出す。「ま、そこ、置いときいな」（関西弁）という津川。「ま、どうぞ、よろしく
　　　　」と千崎が帰ると幹部（長弘）に「なんぼや？」という津川。「100（万円）でしょう。どう
　　　　します？」という幹部。津川は相当キタない男のようで、船の斡旋を遅らせ、その代わり、“渚
　　　　館”に泊るのは危ないということは上村に教えてやる（一挙両得を狙っているのだ）。

　　　　…“渚館”には荒くれ者のトラック運転手の客も多く、お尻を触られたりする美奈。そこへ千崎
　　　　が子分とやってきて、美奈を連れて館内を調べて回る。もちろん上村たちはいない。その後、ニ
　　　　ワトリに餌をやっていた美奈はトラック運転手の雲州（高木均。そう、ムーミンパパ）にプロポ
　　　　ーズされる。しかし、

　　　　美奈「あなたの気持ちは、本当に嬉しいと思うわ。でもダメなの。前にもそう言ってくれた人が
　　　　　　　あった。あなたと同じように…でも殺された。あたしには死神がついてるの」

　　　　そこへ千崎が現われ、雲州は追い払われる。美奈は以前死んだという若者の実家に送金している
　　　　らしいのだが、彼を殺したのは千崎のようだ。どうやら美奈は、その若者と逃げようとしていた
　　　　らしい。千崎とはその前に愛人関係にあったようだが、唾を吐きかける美奈、千崎に叩かれる。
　　　　そこへ謎の殺し屋（草薙幸二郎）がやってくる。お辰は「全くヘンな奴ばっかり来やがって！」
　　　　とボヤく（笑）。島津組が派遣した男のようで、千崎より立場が上のようである。

　　　　殺し屋「ドブネズミはどうしたぃ？」
　　　　千崎「それがまだ…」
　　　　殺し屋「ネズミだけを追うからさ。奴を太らしているドブをさらいな」

　　　　その頃、上村たちは小田原のモーテルに泊る。

　　　　 ◆

　　　　…翌朝。上村たちは横浜を通るという大和運輸のトラックの運転手たち（柴田新三・晴海勇三）に交渉して荷台に乗せてもらうことに。その頃、津川組
　　　　の幹部は謎の殺し屋と車で追跡戦を行なう。階段になった路地に追い詰められ、津川組の
　　　　幹部は銃で脅され、“逃がし屋”の船の出る埠頭へ殺し屋を案内する。しかし上村たちがいない
　　　　ので、待ち伏せするという殺し屋。タクシーがやってきて、かまえる殺し屋だが、これはただの
　　　　立ち小便だった。そこへ現われたトラックは塩崎が運転していて（運転手たちは荷台に縛られて
　　　　いる。笑）、慌てて銃撃する殺し屋だが、白いオープンカーごと埠頭から海中へ落とされてしま
　　　　う（ここはミニチュアワークとの合成）。塩崎は船がすでに出ていることを知り、約束が違う！
　　　　と津川組の幹部に詰め寄るが諦めて指示通り、また“渚館”へ。桶に張った氷（冬の話なのです
　　　　）を割って水を汲んでいる美奈、「わざわざ殺されに帰ってきたの？」と言いながらも、水面に
　　　　写る顔は、何だか嬉しそうでもある。美奈は自分の部屋なら安全だろう、と、屋根裏の部屋へ上
　　　　村たちを匿う。そこへ入ってくるお辰に咄嗟に銃を向ける上村（早い！）。お辰は食堂から酒を
　　　　運ぶ美奈に、

　　　　お辰「お待ち。このうちをメチャメチャにするつもりかい？。あいつらはお尋ね者なんだよ…バ
　　　　　　　カな子だよ」（まるで『ルパン三世』やジブリアニメに出てきそうなババアである。笑）

　　　　このまま殺されるのを待つのか？と問う塩崎に、

　　　　上村「こんなことはこれまでにも何回かあった。そのたびに俺たちは勝ち抜いてきた。今度だっ
　　　　　　　て、おんなじさ」

　　　　気を落ち着かせるため、塩崎に酒を飲ませ、部屋にあったギターで歌わせる上村。塩崎は弾き語
　　　　りをする（挿入歌“逢いたいぜ”）。階下でそれを耳を澄ませて聞き入る美奈。上村は無表情で
　　　　見つめているだけである。食事の後、銃に弾丸を詰める上村。食器を下げに来た美奈は、塩崎が
　　　　眠っているのは、上村が仕込んだ薬のせいだと気付く。お辰が迷惑そうに上村に出ていくように
　　　　言いに来る。

　　　　お辰「出てっておくれよ！。ここは人殺しの来るところじゃないんだから！」

　　　　しかし、逆に美奈に客のトラックからガソリンを抜いて売っていることをバラすと言われ退散す
　　　　る。顔を見合わせ笑い合う上村と美奈。お辰の口から出た配達先のダルマ船へ連れて行ってくれ
　　　　るよう頼む上村。眠る塩崎にメモを残す。

◆

　　　　…その頃、大田原たちと島津の息子（杉良太郎）が津川の屋敷へやってくる。上村は美奈の運転
　　　　するトラックに乗せられ、ダルマ船のある埠頭へ。彼女も水上生活者出身で、その生活がイヤで
　　　　陸へは逃げたが、何も得られず、関わった千崎からも逃げたと話す。

　　　　美奈「…逃げてばっかり。逃げるのはもうくたびれたわ。似てると思わない？、あなたたちに」
　　　　上村「俺のは逃げるんじゃねえ。生きるんだ。昔からそうやってずっと生きてきた。ガキの頃、
　　　　　　　もし俺が戦うことを知らなかったら、何度餓死してたか知れねえ。今度だって俺は必ずこ
　　　　　　　こから抜け出してみせる」（暗示的に、その時、ちょうど長いトンネルを抜ける）

　　　　…津川たちと大田原たち、島津の息子は手を組むことに。しかし島津の息子は父を殺した奴だけ
　　　　は許せないようだ。大田原がその件は責任を持つと言い出す（元々の殺しの依頼主なのに）。上
　　　　村たちは“渚館”だと聞かされる三好。

　　　　…ダルマ船では上村が美奈の顔見知りの貨物船の船長（雪丘恵介）に船に乗せてもらう交渉をす
　　　　　る。

　　　　船長「もう一人というのは美奈坊のことかい？」
　　　　美奈「違うわよ！」

　　　　上村は無言である。

　　　　美奈「私の席もある？」
　　　　船長「ああ、あるさ。美奈坊の席はいつでも、ちゃーんと取ってある。何度も待ちぼうけ食って
　　　　　　　きたがな」

　　　　しかしダルマ船の船長（山田禅二）は、ここで生まれ育った者はどこへも行けないと言う…。悲
　　　　しげな表情を浮かべる美奈。

◆

　　　　…“渚館”では塩崎が三好たちに見つかってリンチを受ける。そこへ戻ってきた美奈は、その様
　　　　子に気付き、上村を置いて、裏から一人でこっそり部屋へ入り、血だらけの室内に驚く。塩崎は
　　　　津川の屋敷に拉致される。お辰の言いつけを振り払って“渚館”を出ようとした美奈だが、千崎
　　　　の弟分に千崎からの電話を取らされ、話を聞く。再びダルマ船へ行く上村と美奈だが、上村は美
　　　　奈が何か隠していることに気付く。そこへ三好が現われる。上村は美奈と塩崎を貨物船に乗せて
　　　　くれることを条件に、自分が残ることを承知する。塩崎は貨物船に連れて行かれ、上村と再会す
　　　　るが、その途端、上村に殴られ気を失う。上村は彼を船室のベッドに寝かせ、美奈に任せ、彼女
　　　　が引き止めるのを無視して、ダルマ船に乗り込み、陸へ向かう。波止場で敵に電話をする上村。

　　　　上村「明日、午前七時、埋め立て地で会おう」

　　　　…目が覚めた塩崎は状況を理解して甲板へ飛び出し、舳先で陸に向かい、「兄貴ー、兄貴ー！」
　　　　と叫び、その場に崩れ伏す。不幸な境遇から脱け出せたはずの美奈の心にも空しさが広がる…。

◆

　　　　…未見の方はこの先は読まないほうが作品を楽しめると思うのですが、読みますか？（笑）。

◆

　　　　…風で砂埃の舞う埋め立て地。攻略方法を考える上村。

　　　　上村「相手は何人いる？。三人…五人…十人かもしれない。拳銃で戦えば、一人か二人、せいぜ
　　　　　　　い三人しか倒せない…」

　　　　カラスの群れを見上げる上村。

　　　　上村「散弾銃か。散弾銃なら一発のタマでうまくすれば二人は倒せる。殺さなくても戦闘能力を
　　　　　　　奪うことは出来る。あとはこのベレッタがある。二連銃（？）なら四人まで倒せる」

　　　　…その頃、三好が散弾銃やライフルで大田原のベンツのフロントグラスを撃ち、防弾性の高さを
　　　　証明している。ヘリコプターの騒音をテープで流しながら、発砲の音を消すというのは、なかな
　　　　かプロのやり口のようだ。この装甲車のような車で、上村がやられるところを見物しようという
　　　　わけである。その様子を丘から双眼鏡で眺めていた上村は、火薬や時計、バッテリーや磁石など
　　　　を買い込み（火薬を売る男に扮しているのは澄川透）、時限爆弾のようなものを作り始める。五
　　　　秒という時限を何度も確かめる（このあたりも、やはり映画版『ルパン三世』第1作と似ていま
　　　　すよね？。笑）。

◆

　　　　…翌朝。約束の時間の半時間前に出発した上村、15分前に埋め立て地に着く。何やら地面でシ
　　　　ュミレーションを行なった後、散弾銃をバッグから取り出し、またスコップで人間が一人入れる
　　　　くらいの穴を掘る。まるで自分の墓穴のような穴を。六分前。爆弾を取り出し、穴へ入れようと
　　　　するが、なぜかハエを見つける（冬なのですが）。そのハエがうごめき飛び立つのを嬉しそうに
　　　　眺める上村。そこへ敵襲が。四人が襲ってくる。爆弾を穴へ落とし入れ、ベレッタを前方へ投げ
　　　　捨て、そっちへ走りながら散弾銃を撃つ上村。二人を倒す。散弾銃を投げ捨て、転がりざまベレ
　　　　ッタを拾い（そのために前方へ投げておいたわけ。プロ！）、残りの二人を撃ち倒す。

◆

　　　　…少し離れたところのベンツの中には、津川と大田原、島津の息子、そして助手席の三好と運転
　　　　席の千崎が。三好は双眼鏡で眺め、「やっぱり散弾銃です。ご覧ください」と、自分の読みに満
　　　　足げ。三好は助手席からサイレンサー付きの銃を出し、千崎に車をスタートさせる。上村のほう
　　　　に近寄って行きながら、ドシュドシュという低い銃声が三発。左の肩口を撃たれる上村は、散弾
　　　　銃をかまえてはいるが、撃たない（弾丸がないわけではなく、あくまでも穴の存在に気付かせな
　　　　いためのようだ）。続いて三好が撃った三発で、今度は右足を撃たれ、ひざをつく上村。車はど
　　　　んどん一直線に上村に近付いてくる。もう一発、銃声がした瞬間、上村は掘ってあった穴に飛び
　　　　込み、その上を通過する車の底に爆弾を取り付ける（強力な磁石が付いているので貼り付いてし
　　　　まうのだ）。通りすぎた車は大爆発を起こす。テーマ曲の口笛が流れる中、黒煙を上げて燃える
　　　　車を残し、上村は右足を引きずり、よろけながらも歩き続ける。終。

◆ ◆ ◆

　　　　…後の『ルパン三世』（特に旧シリーズ）に影響を与えたのではなかろうか？という、日活のハ
　　　　ードボイルド映画の佳作です。ストーリーそのものは詰めが甘い（どうなったのか、うやむやに
　　　　なってしまったままで終わっている感じの部分もあります）ような気もしますが、一度は見てい
　　　　ただきたい日活映画の一本です。また小林千登勢さんという、日活生え抜きではない女優さんを
　　　　ヒロインに持ってきている点も、逆にイイのではないかという気がします。これが浅丘ルリ子さ
　　　　んや松原智恵子さんだったら、少し違ったものになっていたように思います。

LAST UP DATE ◆ 2009年9月13日