“殺し屋”

使用している画像、その他の権利は全て、原権利者に帰属します。
映画・テレビドラマファン同志の楽しみのみを唯一の目的としたものであり、
利益を得たり、権利を侵害しようとするものではありません。

注）　他掲示板への転送など、画像の二次的な使用は厳禁いたします。

“殺し屋”

　　　　宍戸錠さんの著書、新潮社刊《シシド小説・日活撮影所》の246ページに、

　　　　「殺し屋というニホン語がまだ存在しない時代だった」

　　　　とあります。…“殺し屋”などという奇妙な言葉は、いつからあるのでしょう？。《シシド～》
　　　　の中では、1959年12月公開の日活映画『昼下りの暴力』における宍戸錠さんご本人の役を“
　　　　殺し屋”と自称したように書かれています。

　　　　「誰が作ったニホン語か知らないが、殺し屋が初めて日本のスクリーンに登場した」

◆ ◆ ◆

　　　　しかし本当のところはどうなのか？（笑）。そこで、《キネマ旬報》の作品紹介データベースで
　　　　“殺し屋”をキーワードに検索してみました（もちろん映画誌は他にも存在しましたが、最もメ
　　　　ジャーであったであろう誌面だということで）。映画の作品紹介の文中では、いつから“殺し屋
　　　　”という言葉が使われ始めたのか？。“殺し屋”というキーワードで、まさに“ヒット”した最
　　　　も古い作品は、洋画の西部劇でした。1953年製作の『殺し屋稼業』“Outlaw Territory”
　　　　（撮影監督のリー・ガームズと俳優のジョン・キャラダインが共同監督。マクドナルド・ケリー
　　　　主演）という、ズバリ！、タイトルに“殺し屋”が入っている作品です。しかし、この作品、製
　　　　作は1953年なのですが、日本での公開は1957年なのです（！）…ということは、紹介文が書
　　　　かれたのは1957年だということになりますね？。…この作品は、ちょっと保留です。次に古い
　　　　作品は、やはり西部劇で、1954年『ファイブ・ガンあらくれ5人拳銃』“Five Guns West”
　　　　（ロジャー・コーマン監督作品で、ヒロインがドロシー・マローン）。“殺し屋のビリーとキャ
　　　　ンディ兄弟～”という一文がありますが、何とこれは1961年の日本公開。…除外でしょう。

　　　　1955年製作の作品では、暗黒街もの『紐育秘密結社』“New York Confidential”（ブロド
　　　　リック・クロフォード、アン・バンクロフト、リチャード・コンテ主演）に“ニックはいくら殺
　　　　し屋とはいえ～”という一文があります。これは1956年の日本公開。これは採用でしょうか。
　　　　暗黒街もの『法に叛く男』“Illegal”（エドワード・G・ロビンソン、ジェーン・マンスフィ
　　　　ールド主演）は1961年の日本公開なので除外。西部劇『復讐に来た男』“Tall Man Riding”
　　　　（ランドルフ・スコット、ドロシー・マローン主演）は1956年の日本公開で、“殺し屋ペソ・
　　　　キッド一味に狙撃”の一文があります。

　　　　1956年製作作品では、有名な西部劇『OK牧場の決斗』“Gunfight at the O.K Coral”（バ
　　　　ート・ランカスター、カーク・ダグラス主演）に“3人組の殺し屋を返り討ちに倒した”、やは
　　　　り西部劇『ボスを倒せ！』“Red Sundown”（ロリー・カルホーン、マーサ・ハイヤー主演）
　　　　に“酒場で殺し屋のゼルマン5人兄弟と喧嘩”の一文があります。どちらも1956年の公開。

　　　　1957年製作作品では、暗黒街もの『地獄への近道』“Short Cut to Hell”（ジェームズ・キ
　　　　ャグニー第一回監督作品）、同様の『ニューヨークの顔役』“Never Love Stranger”（ジョ
　　　　ン・ドルー・バリモア主演）、現代西部劇もの『嵐を呼ぶ銃弾』“Cole Younger Gunfighter”
　　　　（ジェームズ・ベスト主演）、ギャングもの『殺し屋ネルソン』“Baby Face Nelson”（ド
　　　　ン・シーゲル監督、ミッキー・ルーニー主演）は1958年の公開、ピカレスク・アクション『断
　　　　崖の河』“The River's Edge”（レイ・ミランド、アンソニー・クイン主演）は1962年の公
　　　　開ですので、以上、1957年製作作品は全て除外。

　　　　結果、洋画で最も古い“殺し屋”という単語の出てきた映画は、1955年製作・1956年日本公
　　　　開の暗黒街もの『紐育秘密結社』ということになるでしょうか。

◆

　　　　ところで、なぜ1957年以後の公開作品を除外するのかと申しますと、邦画では、1957年7月
　　　　公開の新東宝『坊ちゃんの特ダネ記者』が“殺し屋”というキーワードの検索で引っかかる最も
　　　　古い作品として出てくるからなのです。ここでは、久野四郎さんと小高まさるさんが、“殺し屋
　　　　”という役名で書かれています。多分、これが、《キネマ旬報》の作品紹介に、邦画の現代劇と
　　　　して最初に出てくる“殺し屋”ということになるのかもしれません。続く同年10月公開の東映
　　　　『佐々木小次郎（前編）』の解説文には“～殺し屋陣内に狙われる身となった”という一文があ
　　　　ります。しかし、時代劇です。時代劇には“殺し屋”より“刺客”などという言葉のほうが似合
　　　　いそうです。そこで、現代劇、しかも本格アクションものということになると、同年12月公開
　　　　の水島道太郎さん主演の日活映画（！）『裸女と拳銃』での雪岡純（後の雪丘恵介）さん扮する
　　　　“殺し屋ジョウ（！！）”という役名があります。ちなみにこの作品には宍戸錠さんも出演され
　　　　ていて、溝口という名前の警部の役です。

◆ ◆ ◆

　　　　…結論です。“殺し屋”という言葉は（映画関係では）、まず洋画の解説で1956年頃から使わ
　　　　れ始め、邦画の中で使われたのは、1957年頃からであった、ということにしておいて…イイの
　　　　かなー？（笑）。…なーんて思っていたら、1954年くらいにも、作品の中のセリフで、「おま
　　　　えは殺し屋か！？」などと言っていたりしましてね（笑）。その時は、ご一報ください。お詫び
　　　　します（笑）。

LAST UP DATE ◆ 2002年9月20日