1961年『紅の拳銃』

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　1961年『紅の拳銃』　

　　　　★ここでは、クレジットタイトルの採録とともに、各作品を詳細に解説します。過去に出された
　　　　　文献も参考にしながら、Web＠作者が2009年8月18日以降に検証した結果をまとめています。
　　　　　もちろん抜けもあり誤認も含まれているかとは思いますので、あくまでも作品を楽しむための
　　　　　参考としてください。新たな情報をお寄せいただきたいと思います。
　　　　　※当Webの恒例の方式により、“？”の付いている情報は、確定出来ていないものだと考えて
　　　　　ください。“？”の数により曖昧さが増します（笑）。また、“〔カタカナ〕”という表記は
　　　　　漢字表記が確定出来ない名称の表現です。カッコのないカタカナ表記は、そのままで正しいと
　　　　　考えてください。

◆

　　　　　監督：牛原陽一　企画：高木雅行　原作：田村泰次郎（「群狼の街」より講談倶楽部連載）
　　　　　脚本：松浦健郎　撮影：姫田真佐久　照明：岩木保夫　録音：沼倉範夫　美術：木村威夫
　　　　　編集：辻井正則　助監督：斎藤和三郎　現像：東洋現像所　色彩計測：安藤庄平
　　　　　製作主任：武藤良夫　音楽：小杉太一郎
　　　　　主題歌：ポリドールレコード
　　　　　“追憶〔おもいで〕”　作詞：水木かおる／作曲：藤原秀行　唄：赤木圭一郎

◆

　　　　　赤木圭一郎　…中田克巳
　　　　　　　（石岡国四郎が拳銃使いとしてスカウトする男。実は殺し屋だった中島の弟で潜入刑事）
　　　　　白木マリ（後に白木万理）　…牧野千加子
　　　　　　　（陳万昌から逃げ出した妻。キャバレー“銀の城”のホステス。赤坂マンションの住人）
　　　　　笹森礼子　…石岡菊代（石岡国四郎の妹。高校一年生の頃から目が見えなくなっている）
　　　　　　※目が見えなくなって三年だということなので、年令は19歳くらいのようです。
　　　　　芦田伸介　…小寺久（石岡国四郎の軍隊時代の上官である中隊長で小寺組の組長。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　“KODERA COMPANY”を営んでいる）
　　　　　藤村有弘　…キム（香港の組織から派遣されて来る劉徳源の部下）
　　　　　垂水悟郎　…石岡国四郎（片腕の拳銃使い。元・陸軍曹長。右腕の義手に拳銃を隠している）
　　　　　小沢栄太郎　…劉徳源〔リュウ・トクゲン〕（香港から来る麻薬密売組織のボス）
　　　　　小沢昭一　…陳万昌〔チン・マンショウ〕（神戸の麻薬密売組織のボス。
　　　　　　　　　　　　　　　上役である劉徳源を裏切って香港のルートを手に入れようとしている）
　　　　　吉行和子　…長山美津
　　　　　　　　　　（中田克巳の元の恋人。劉徳源の愛人となり中国名？〔エイカ〕と呼ばれている）
　　　　　草薙幸二郎　…陳大隆〔チン・タイリュウ〕
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（陳万昌の弟で劉徳源を殺すため香港へ行っていた）
　　　　　深江章喜　…テツ（陳万昌の子分の兄貴分）
　　　　　浜村純　…八十島（神戸の大学病院の有名な眼科医である博士）
　　　　　野呂圭介　…ゲン（陳万昌の子分）
　　　　　長弘　…劉徳源の子分（劉徳源が逗留する大阪グランドホテルの部屋にいる蝶ネクタイの男）
　　　　　中台祥浩　…中島（石岡国四郎の軍隊時代の部下で殺し屋としての弟子）
　　　　　矢頭健男（後に矢頭保／写真家）
　　　　　　…ブン（陳万昌の子分。縞模様の鳥打ち帽をかぶっている男）
　　　　　伊豆見雄（後に伊豆見英輔）
　　　　　　…陳万昌の子分（中田克巳と牧野千加子がいる部屋のドアから最初に入って来る男）
　　　　　宮原徳平　…陳万昌の子分
　　　　　　　　　　（中田克巳と牧野千加子がいる部屋に庭側の入口から入って来て画面左に立つ男）
　　　　　鴨田喜由　…東京の大学病院の眼科医（中田克巳に八十島を紹介する男性）
　　　　　水木京二（後に水木京一）　…陳万昌の子分
　　　　　　　　　　（中田克巳と牧野千加子がいる部屋に庭側の入口から入って来た額の上がった男）
　　　　　林茂朗　…キャバレー“銀の城”のボーイ
　　　　　石丘伸吾　…
　　　　　古田祥
　　　　　　…陳万昌の子分（中田克巳と牧野千加子がいる部屋のドアから二番目に入って来る男）
　　　　　立川博　…陳万昌の子分
　　　　　　　　　　（中田克巳と牧野千加子がいる部屋に庭側の入口から入って来て真ん中に立つ男）
　　　　　菊田一郎　…小寺組の組員
　　　　　本目雅昭　…小寺組の組員
　　　　　河瀬正敏　…小寺組の組員
　　　　　鈴木俊子　…神戸の大学病院の看護婦
　　　　　　　　　　　　　（石岡菊代を担当する女性。手術後には、石岡菊代の包帯を解いたりする）
　　　　　漆沢政子　…キャバレー“銀の城”のダンサー
　　　　　守屋徹　…
　　　　　佐藤圭司　…小寺組の組員（機関銃を撃っていて池に落ちる男？）
　　　　　ファミリー・クラブダンシング・チーム　…キャバレー“銀の城”のダンサーたち
　　　　　天宮輝〔振付〕
　　　　　高瀬将敏〔技斗〕

　　　　　以降、主なクレジットなしの出演者

　　　　　家根谷美代子（後に水城英子）
　　　　　　…キャバレー“銀の城”のホステス（石岡国四郎の左隣／画面右の席に座っている女性）
　　　　　福原恵美子　…キャバレー“銀の城”のホステス
　　　　　　（ボックス席で客にビールを注いでいる女性。
　　　　　　　後に中田克巳と石岡国四郎が来た時には、電話をかけているゲンのそば／画面左にいる）
　　　　　水川国也
　　　　　　…キャバレー“銀の城”の客（ボックス席でホステスにビールを注いでもらっている男性）
　　　　　五十嵐久子？
　　　　　　…キャバレー“銀の城”のホステス（中田克巳の向かいの席に座っていた女性）
　　　　　黒木広美　…キャバレー“銀の城”のホステス
　　　　　　（カウンター席に移った中田克巳の右隣／画面左の席でタバコを吸っている女性。
　　　　　　　　　　　　　　　　　後に中田克巳と石岡国四郎が来た時には、ゲンに酒を注いでいる）
　　　　　川村昌之　…キャバレー“銀の城”のバーテン（中田克巳に酒を注ぐ男性）
　　　　　　…大阪グランドホテルのエレベーターボーイ〔二役〕
　　　　　大川隆　…キャバレー“銀の城”のバーテン
　　　　　谷川玲子　…東京の大学病院の眼科の看護婦（石岡菊代を暗室から連れ出す女性）
　　　　　北出桂子　…東京の大学病院の看護婦（中田克巳と石岡菊代がすれ違う背の高い方の女性）
　　　　　北岡みさ子　…東京の大学病院の看護婦（中田克巳と石岡菊代がすれ違う背の低い方の女性）
　　　　　？？？？　…小寺久の事務所の事務員（石岡国四郎にお茶を出す女性）
　　　　　　※現時点ではお名前が判っていませんが、例えば61年『無鉄砲大将』での海津英次／和田浩
　　　　　　治の取り巻きの女学生や61年『街から街へつむじ風』での大下外科の看護婦さん、61年
　　　　　　『恋をするより得をしろ』での白百合荘の住人（宇刈四郎／高原駿雄の恋人）、61年『青
　　　　　　い芽の素顔』での工員（集会では斎藤久美子さんの右隣／画面左に立っている）などに扮し
　　　　　　ている女性です。
　　　　　平塚仁郎　…キャバレー“銀の城”のボーイ
　　　　　　　　　　　　　　　　　（後に中田克巳と石岡国四郎が来た時に階上の席へ案内する男性）
　　　　　松原智恵子　…陳万昌の屋敷のお手伝いさん（中国服の女性）
　　　　　深町真喜子（後に深町真樹子）？　…神戸の大学病院の入院患者の付き添いの女性
　　　　　東郷秀美　…兵庫県生田警察署の刑事
　　　　　　　　　　　　　　　　（最初に陳万昌の屋敷の中田克巳たちのいる部屋に入って来る男性）
　　　　　大路達三　…兵庫県生田警察署の刑事（小寺久を取り押さえる男性）
　　　　　澄川透　…神戸の大学病院の眼科の医師
　　　　　　　　　　　　　　　（手術後の石岡菊代の部屋に八十島と一緒に入って来るメガネの男性）
　　　　　若水朋子
　　　　　　…神戸の大学病院の看護婦（手術後の石岡菊代の部屋に八十島と一緒に入って来る女性）

◆ ◆ ◆

　　　　ここでは赤木圭一郎さんの遺作（完成された作品として）となっている『紅の拳銃』のストーリ
　　　　ーを紹介します。“殺し屋”という職業が、日本にも存在するかのごとく思わせてくれる導入部
　　　　や、各所に出てくる拳銃使いのプロとしてのこだわりが、荒唐無稽な世界へ観客を引き込むのに
　　　　効果的です。

◆

　　　　石岡　「また殺し屋の話ですか…勘弁してくださいよ。殺し屋なんて実際にいやあしねえんだか
　　　　　　　　ら。大体、日本じゃ、殺し屋商売が成り立つわけがないんですよ。警察もあれば法律も
　　　　　　　　ある。第一、ピストルを持つこと自体が銃砲等所持禁止令第一条ってやつにひっかかる
　　　　　　　　んです。違反すりゃ、三年以下の懲役ですからな…」。

　　　　…石岡国四郎（垂水悟郎）が、画面の中から観客席に向かって話しかけるという、この導入部、
　　　　見ている側が虚構の世界に入り込めてしまう、うまい手法です。石岡は軍隊時代の上官で中隊長
　　　　だった小寺久（芦田伸介）に話しかけているのでした。ここは小寺の事務所。工事中のような賑
　　　　やかな音の聞こえる事務所です。小寺は悪玉で、神戸の組織を狙っていて、そのために腕の立つ
　　　　拳銃使いが欲しいのです。戦争中のケガからか右腕が義手である石岡は、大金を積まれて、仕方
　　　　なく引き受けることになります。その石岡の画像がグルグル回って、赤いバックに拳銃が写り、
　　　　タイトル。列車の窓からでも眺めているような、横方向に流れる夜景に赤木圭一郎さんの歌声（
　　　　“追憶”）が重なります。何だかちょっとヤケ気味な歌い方？（笑）。

　　　　…ダンシングチーム（ファミリー・クラブダンシング・チーム）が踊るキャバレー“銀の城”
　　　　で飲み代も払えない男を発見する石岡。見事なろくでなしの目がイイと言う（笑）。ここで石岡
　　　　の隣に座っているホステスに扮しているのは、家根谷美代子（後に水城英子）さん、バーテンに
　　　　扮しているのは川村昌之さんのようです。男の席へ近付く石岡。男は中田克巳（赤木圭一郎）、
　　　　失業中だと言う。

　　　　中田　「あんたは俺を何かに利用しようとしているらしいが、俺は役に立ちそうなものは何も持
　　　　　　　　ってないぜ」
　　　　石岡　「いやぁ…持ってる」
　　　　中田　「何だろうね？」
　　　　石岡　「命だよ」
　　　　中田　「はっはっはっはっ！」
　　　　石岡　「いやいや、本気なんだよ」
　　　　中田　「どういうんだい？」
　　　　石岡　「君の命が欲しい。俺にくれないか」
　　　　中田　「わけを言いなよ」
　　　　石岡　「俺の言う通りのことをしてもらいたい」
　　　　中田　「まさか俺に人でも殺せって言うんじゃあるまいね」
　　　　石岡　「…（頷く）」
　　　　中田　「はぁ！、こりゃ驚いた。世の中にはいろんな人がいるもんだな」

　　　　それでも中田は石岡に雇われることに。そこへ牧野千加子（白木マリ〔後に万理〕）が近付き、
　　　　助けてほしいと告げる。狙われていると言う。中田は彼女と踊った後、店を出て、タクシーを拾
　　　　う。追っ手のゲン（野呂圭介）やブン（矢頭健男〔後に矢頭保／写真家〕）たちをやっつけ、千
　　　　加子のマンションへ行く中田。

　　　　千加子「（窓から外にいる男たちを眺めている中田に）…何を見てるの？」
　　　　中田　「霧さ…」

　　　　千加子は神戸の組織のボスの妻だが、人を殺すことを何とも思っていないボスのことが怖くなっ
　　　　て逃げて来たらしい。

　　　　千加子「あなたはヤクザなの？」
　　　　中田　「…」
　　　　千加子「そうじゃないわね」
　　　　中田　「もっと悪い奴かもしれねえぜ」

　　　　好きな相手はいないのかという話になって、中田は二年前に別れた恋人・長山美津（吉行和子）
　　　　とのことを思い出す。雨の中の別れの回想シーン。突然、理由も聞かされず別れを告げられた美
　　　　津は去っていく。われにかえった中田は、千加子の誘惑を断って出ていく。

　　　　…石岡の家。コルト45というデカい回転式の拳銃を渡される中田。

　　　　石岡　「コルト45ってやつだ。いわゆる22口径とか38口径に比べるとタマが大きい。つまり
　　　　　　　　殺傷力が強いってわけだ。タマが入ってたら、おまえはとっくにあの世へ行ってるぜ。
　　　　　　　　持ってみな」
　　　　中田　「（銃を受け取って眺めながら）…自動式じゃねえのかい？」
　　　　石岡　「オートマティック（“オートマチック”ではなく、“オートマティック”と発音します
　　　　　　　　）がイイと思うのは素人さ。命を張って仕事をする俺たちにとって一番怖いのは商売道
　　　　　　　　具の故障だ。オートマティックは万一不発があると、いわゆる“突っ込み”が起こって
　　　　　　　　タマが詰まっちまう。そうなると、どんな名人もお手上げだ。（中田から銃を取り上げ
　　　　　　　　）…そこへ行くと、この回転式は万一不発があっても、もう一度引き金を引きさえすれ
　　　　　　　　ば、ちゃんと次のタマが回って、撃ち続けられるんだ」
　　　　中田　「人殺しの成功率が高いってわけだ」
　　　　石岡　「おまえの身の安全も考えてるんだ！…まずこれで練習する」
　　　　中田　「はっ（笑）、殺し屋の身の安全をかい？」
　　　　石岡　「当たり前だ。ようやく探し当てたタレントだ。そうあっさりとしくじってもらいたくね
　　　　　　　　えな」

　　　　そこへ石岡の妹・菊代（笹森礼子）がお茶とケーキを運んでくる。慌てて銃を隠す中田だが、菊代はどう
　　　　やら盲目らしい。それでも菊代は年頃の娘だと話す石岡、中田がイカす男だということが判って
　　　　いるのだろう…と。そうでなければ、滅多にケーキは付かないという（笑）。石岡が中田に千加
　　　　子のことを尋ねる。

　　　　石岡　「あの女はどうした？」
　　　　中田　「忘れたよ」
　　　　石岡　「OK。修行中は、その心がけだ。女に惚れると、人間もハジキと一緒で故障を起こすか
　　　　　　　　らな」

　　　　ソファのクッションの中からワルサーP38を取り出す石岡。その銃を使った弟子・中島（中台
　　　　祥浩）は弾丸が詰まって死んだらしい。なぜか中田の顔が曇る。中島という男の軍隊時代の写真
　　　　を見せてもらう。

　　　　中田　「なるほど。影が薄いな…」

　　　　軍隊時代、曹長だったらしい石岡と彼らの上官だったという小寺も一緒に写っている。その日か
　　　　ら石岡の家に泊り込み、銃の構造や撃ち方を習う。壁に貼った図を示しながら、

　　　　石岡　「コルト45の構造図だ。実物と比べて、よく各部の名称を覚えてくれ。これがシリンダ
　　　　　　　　ー。その拳銃の場合は、タマが六発入る。しかし、実際には暴発を防ぐために最初の一
　　　　　　　　発は空にしとくのが常識だ。つまり六連発でも使うのは五発ということだ。タマの数は
　　　　　　　　撃ち合いの最中でも絶えず頭で数える習慣を付けておかなくちゃいかん。ここ一発とい
　　　　　　　　う時にタマを撃ち尽くしているのに気が付いたんじゃ、あの世が早すぎたってことにな
　　　　　　　　る。これがハンマーだ。いわゆる撃鉄だ。早射ちの時には拳銃を抜きながら、こいつを
　　　　　　　　親指で起こし、引き金を引く。これが引き金だ。トリガーって言う」

　　　　場面変わって、銃を握っている中田。

　　　　石岡　「まず銃口を下に向け、指先でシリンダーを回転させて、タマを調べろ。次に右腕を延ば
　　　　　　　　して、出来るだけ拳銃を目の前に突き出せ」

　　　　その通りにして見せる中田。

　　　　石岡　「そうだ。人差し指は引き金に充分かけ、深く息を吸い込んで一瞬呼吸を止め、引き金を
　　　　　　　　引く。これがコツだ。やってみろ」

　　　　カチャ！。引き金を引く中田。

　　　　石岡　「よーし、スタイルはおおむね合格だ。指で撃つより腰で撃つつもりで、自分の腰をしっ
　　　　　　　　かりと大地に生えたように安定させておくことを忘れるな。いいか、人間、体ン中で中
　　　　　　　　心は腰だ。腰がフラフラしてるようじゃ、拳銃も女も満足には撃てねえ」

　　　　石岡は自分の左手を左肩のあたりに差し示して、

　　　　石岡　「撃て！」

　　　　中田が石岡の左手のあたりを目指して引き金を引く。石岡が、その手を右下、左上、左下、右上
　　　　…と、次々に移動させていく。それを追いながら引き金を引く中田。

　　　　石岡　「その調子だ。撃って撃って撃ちまくるんだ。最初は拳銃が重くて五分も経たないうちに
　　　　　　　　腕が下がっちまう。慣れれば重さなんて感じなくなる」

　　　　…夕食のカレーを作る石岡の包丁さばきを見て手伝うことにする中田に、「すまんな、ハンパな
　　　　奴ばっかりで…」と言う石岡のセリフは、菊代の顔を曇らせる…。夜も特訓は続く。両手に持っ
　　　　た拳銃の右手の一挺を捨て、左手のもう一挺を右手に投げて取る中田。

　　　　石岡　「よーし、今のかまえがボーダーシフト。二挺のうち、一挺が故障やタマ切れで使えなく
　　　　　　　　なった時の咄嗟の処置だ。ファンニングをやってみろ」

　　　　撃鉄を左手で起こしながら、連続して撃つ中田。

　　　　石岡　「よーし。そいつは大勢の敵を相手にした時の撃ち方だが、手元が狂いやすいから、一対
　　　　　　　　一でやる時には、ゆっくり狙って一発で決めるほうがいい…」

　　　　家のそばを電車が走る。パンタグラフがスパークして青白い火花を散らしている。タバコに火を
　　　　着ける石岡だが、中田が銃を指で回しているのを見て、イヤな顔をする。

　　　　石岡　「待て！。何だ、そのマネは（ここ、ちょっと聞き取りにくいです）」
　　　　中田　「あんまり空撃ちばかりやらされるもんで、退屈まぎれに練習したんだ」
　　　　石岡　「いかんなー。素人はすぐ目先のスタイルばかり追いたがる。そんなのは西部劇のお遊び
　　　　　　　　だ。第一、タマが入っている時は暴発しやすい。今後、絶対やめろ！」
　　　　中田　「判ったよ、先生…」

　　　　しかし、そういう曲芸が役に立つこともあると言う石岡。降参して拳銃の握る部分を相手に差し
　　　　出し、渡すと見せかけたその瞬間、銃をクルリと回転させて撃つ曲撃ち“ロード・エージェント
　　　　・スピン”を教える石岡。

　　　　中田　「卑怯なやり方だな」
　　　　石岡　「なまっちょろいことを言うな！。人を殺すのに卑怯も正義もあるかい。あるのは、いか
　　　　　　　　にして相手より早く正確に撃つかということだけだ。次はクイックドロー（ストップウ
　　　　　　　　ォッチを手にして）。用意…撃て！」

　　　　石岡に背を向けた中田は、腰に差した拳銃を素早く抜き、振り返りざま撃つ。

◆

　　　　…小寺の事務所。女性秘書（女優さんは不明）がお茶を出して退室する。小寺は石岡に新人に会
　　　　わせろというが、理想的なのは会わないことだという。その頃、中田は菊代を大学病院に連れて
　　　　行き、そこの医師（鴨田喜由）から、神戸の八十島博士（浜村純）なら治せるかもしれないとい
　　　　う朗報を聞く。ここで菊代を支えて暗室から出てくる看護婦さんに扮しているのは、谷川玲子さ
　　　　ん。その後、建物から出てきた中田と菊代のそばを通る看護婦さんに扮しているのは北出桂子さ
　　　　んと北岡みさ子さんでしょう。目が治ったら、真っ先に中田の顔が見たいという菊代。

　　　　菊代　「見えるようになったら、一番先に中田さんを見たいの。きっと中田さんって、私の想像
　　　　　　　　してるような人に違いないわ」
　　　　中田　「どんな想像だい？」
　　　　菊代　「素敵な人…」

　　　　…森の中、木の枝から張られたロープから人間の形をした標的を滑らせる石岡。それに向かって
　　　　5発撃つ中田。

　　　　石岡　「おまえ、拳銃を撃ったことがないってのは、本当の話か？」
　　　　中田　「どうして？」
　　　　石岡　「驚いた。うますぎる。おまえって奴は、拳銃を撃つために生まれて来たような男だ」
　　　　中田　「基本をやかましく言われたからな。あんたのおかげだよ」
　　　　石岡　「これほどの腕になるとは思わなかったな。もう俺が教えることはない。免許皆伝ってや
　　　　　　　　つだ」
　　　　中田　「ははは（笑）…」

　　　　ハンターに成り済ましてその様子を影から見ていた小寺のくわえたタバコを撃ち飛ばす中田。

　　　　中田　「ヘヘッ（笑）、ただ見物してもらっちゃ悪いからな。中隊長さんに挨拶したんだ」

　　　　…事務所で小寺は石岡に、確かに中田は十年に一人というような男かもしれないと、満足げに言
　　　　う。そろそろ中田に仕事をさせようと提案する小寺。その頃、菊代の入れたコーヒーを飲みなが
　　　　ら、歓談する中田。菊代は、兄が中田をかなり気に入っていることを打ち明ける。その気持ちは
　　　　兄の足音で判るのだと言う。

　　　　…石岡は中田に初めて会った“銀の城”（キャバレーの中には、バンドの演奏で、この作品の主
　　　　題歌が流れていて、これがなかなかイイ感じです）で、千加子の写真を見せ、小手調べに消す相
　　　　手は彼女だと告げる。そこで千加子の夫である神戸のボスが、自分の前任者の殺し屋を始末した
　　　　相手だと知る中田は、渡された報酬は菊代の手術代に使ってくれと言う。偶然、店に居合わせた
　　　　ゲンが、仲間に電話しますが、その時、そばにいる女性（ホステス？）に扮しているのは、福原
　　　　恵美子さんではないかと思います。中田は千加子のマンションへ。千加子は、中田に殺されるの
　　　　ならかまわないと言う。そこで中田は彼女を逃がそうと考える。マンションから千加子を連れ出
　　　　すが、表でゲンやその兄貴分のテツ（深江章喜）に囲まれる。しかし例の“ロード・エージェン
　　　　ト・スピン”を駆使して相手の銃を撃ち飛ばし（それを物陰から見ていた石岡はニヤリと笑う。
　　　　「さすがは俺の教え子だ…」）、彼らの車で神戸へ。石岡は中田の行動の意味が判らず、車を追
　　　　うが銃を弾き飛ばされてしまう。翌日、事務所で小寺に叱責され、石岡は自分が中田を神戸へ追
　　　　い、場合によっては始末すると言い放つ。

　　　　 ◆

　　　　…神戸のボス・陳万昌〔チン・マンショウ〕（小沢昭一）の屋敷。敵に囲まれる中田は、自分の
　　　　銃の弾丸の数より、相手の数のほうが多いので観念する。そこへ登場する陳万昌。

　　　　万昌　「中田さん、イラっしゃい。わたくし、陳万昌でス」（怪しいイントネーション…笑）

　　　　中田は自分の銃の腕前と、千加子の自由を引き替えにしようと取り引きするが断られ、納屋のよ
　　　　うな場所に監禁されてしまう。そこへ香港から万昌の弟・大隆〔タイリュウ〕（草薙幸二郎）が
　　　　帰ってくる。香港のボスを殺して戻ってきたらしい（この知らせをテツが万昌の部屋に告げに行
　　　　く時、部屋から出てくるお手伝いさんに扮しているのは松原智恵子さん。一瞬です）。

　　　　大隆　「アチこち、足跡くらますの、苦労していたが、ヤット、今朝、神戸へ潜り込んだよ」

　　　　大隆は香港のボスを殺したという証拠に、香港の新聞を見せる。“香華公司社長劉徳源〔リュウ
　　　　・トクゲン〕被暗殺”の文字が踊る。もう自分の上に立つボスがいなくなったと喜ぶ万昌。中田
　　　　の話になり、大隆が彼の腕を試すという。

　　　　三ノ宮駅に着いた石岡兄妹もゲンたちに拉致され、納屋の中で中田に再会する。

　　　　中田　「どうしたんだい？」
　　　　菊代　「中田さん？。中田さんなのね？。声で判るわ。怖かったわ。声を立てると殺すって言わ
　　　　　　　　れたの。中田さんに会いたかった…」
　　　　石岡　「おまえに会いに来たら、ここの奴らにふんづかまったんだ」
　　　　菊代　「兄がね、中田さんが待ってるから、神戸に一緒に行こうって。中田さん、やっぱり待っ
　　　　　　　　ててくださったのね」
　　　　中田　「…（石岡に何か言おうとするが）」
　　　　菊代　「でもここはどこなの？。病院じゃないことは判ってるけど…ね、どこ？」
　　　　中田　「…（石岡と見つめ合うけれど、何も言えない）」
　　　　菊代　「ねえ、あたしたち、ここから出られないの？。病院には行かれないの？」
　　　　中田　「…」
　　　　菊代　「判ったわ…私たち、今に殺されるのね。どうして殺されるのかしら。でもいいわ。中田
　　　　　　　　さんと一緒なら、私、かまわない。目なんか見えなくたってイイの。あたしには中田さ
　　　　　　　　んの顔がよく判る…（中田に抱きつく）」

　　　　中田に会えて喜ぶ菊代の様子を窓の外から見て、千加子は万昌に相談をする。万昌は、その千加
　　　　子の様子から、彼女が中田に惚れていることを察し、嫉妬からか、大隆に三人を始末することを
　　　　命令する。ゲンたちに連れられ、車で海岸へ行く中田。その車をタクシーで尾行する怪しい男・
　　　　キム（藤村有弘）が。

　　　　キム　「あの車、見失ったらタメよ。チップ、たくさん、やるからね」（やはりイントネーショ
　　　　　　　　ンは怪しい。笑）

　　　　海岸の砂丘の彼方に石岡兄妹がいる。中田は大隆に銃を返され、釈放される。

　　　　大隆　「さあ、コレで三人揃って釈放…。コレ、君の拳銃だ。返してヤルよ。一度、コレ使うと
　　　　　　　　ころ、見たかったが残念だ。幸運、祈るよ」

　　　　しかし歩き去る中田を後ろから撃とうとする卑怯な大隆。

　　　　石岡　「中田ー！」

　　　　三発撃つ大隆。飛び退く中田。撃ち返す中田だが、銃に弾丸は入っていない！。

　　　　中田　「野郎！」
　　　　大隆　「わはははは！。俺たちがそう簡単に、オマエたちを自由にするワケはない」

　　　　石岡　「（菊代に）…伏せてろ！。いいか、兄さんが戻ってくるまで、動くんじゃないぞ」

　　　　菊代を置いて中田のほうへ駆け寄る石岡。彼が差し出した義手の中には、拳銃が入っている！。

　　　　大隆　「今までのは脅かし。今度はイッパツで行くか」
　　　　中田　「バカヤロー！」

　　　　義手の中の拳銃を取り、反撃する中田。その時、大隆たちは別の方向から銃撃され驚く。丘の彼
　　　　方から、キムが現われる。黒いコートの裏地の赤と、赤い蝶ネクタイが印象的。

　　　　キム　「お国離れて何ピャク里、はるばる香港からオマエの後をつけてきた。よくも劉徳源シェ
　　　　　　　　ンシェ（先生）を殺したな。ワタシ、仇〔かたき〕討つよ」

　　　　しかし遠すぎるのか、あるいはキムの銃の腕がイマイチなのか、タマは当らず、大隆たちは逃げ
　　　　去って行く。ここで菊代に中田と石岡の正体がバレてしまう。

　　　　キム　「いつまでこんなトコロにいる？。危ないネ。警察来たら困るヨ」
　　　　中田　「助けてもらったお礼を言わなくちゃイケねえな」
　　　　キム　「あの男と互角に撃ち合うとは、オマエもいい腕だな」
　　　　中田　「あんた、いったい何者だい？」
　　　　キム　「おまえさんの腕、ゼヒ買いたい男」
　　　　中田　「菊代さん、これで俺や石岡さんの正体が判ったろ？。いつか判ると思ってたんだが…さ
　　　　　　　　あ、約束だ。目の先生のところへ行こう」
　　　　菊代　「イヤです。目なんか、治らなくたってイイんです」

　　　　悲しそうに見つめ合う中田と石岡…。

◆

　　　　…翌日。それでも病院に入院した菊代だが…。

　　　　菊代　「私の目がもし開〔あ〕くようだったら、兄さんなんか見えないところへ行っちゃう。中
　　　　　　　　田さんなんか見えないところへ…」

　　　　病院の庭で話す中田と石岡。石岡は東京で小寺に金を取り上げられたことを話す。

　　　　中田　「何だって？。じゃあ、あんた、何のために神戸に来たんだ？」
　　　　石岡　「おまえに会うためさ。場合によっちゃ、おまえを殺すつもりだったんだ。ところが昨日
　　　　　　　　は、海岸で俺のほうからハジキをおまえに渡しちまった。はは（笑）、俺にはおめえは
　　　　　　　　殺〔や〕れねえ。どうやら、おめえが好きなのは、妹のやつだけじゃねえらしいよ…」
　　　　中田　「湿っぽいこと、言うなよ。俺のほうで、あんたを消しにくくなる…」
　　　　石岡　「…何だって？」
　　　　中田　「あんた、いったい、俺を誰だと思ってるんだい？」

　　　　…神戸の町が見える高台（神戸市中央区にある諏訪山公園らしい）で話す石岡と中田。遠く汽笛
　　　　が聞こえる。石岡が鍛えた前任の殺し屋・中島は、自分の兄だと告白する中田。中田は石岡の家
　　　　にあったものと同じ写真を持っていて、兄と一緒に写っている石岡と小寺を探せば、兄に会える
　　　　と思っていたらしい。石岡にたどり着くまでに二年かかったと言う。

　　　　石岡　「それほど深いわけがありながら、おまえは俺の妹の目を治そうなんて…」
　　　　中田　「バカ野郎、おまえに妹がいたことだけは、俺の計算違いだったんだ」
　　　　石岡　「すまねえ。俺はもう何も言うことはねえ。おまえの気の済むようにしてくれ。俺なんぞ
　　　　　　　　は死んだってかまわねえ男だ…」
　　　　中田　「何言ってやンでえ。もう少し生かしといてやるよ。差し当たって病院の金を作ンなきゃ
　　　　　　　　なンねんじゃねえか」
　　　　キム　「お金いくら欲しい？」

　　　　突然、キムが現われる。

　　　　キム　「ワダシ、これと思った人、ジェッたい逃さない。私、強ーい助太刀、欲しい。アンタ、
　　　　　　　　お金欲しい…世の中、持ちつ持たれつね」

　　　　キムと大阪の豪奢なホテルへ行く中田。その一室に、実は影武者を殺されただけで、生きている
　　　　劉徳源がいるという。香港へ進出しようとしている陳兄弟を殺すという。

　　　　キム　「コレから、陳万昌、やっつける」
　　　　中田　「神戸の陳万昌かい？」
　　　　キム　「他にそんな男、いないヨ。あれはね、卑怯者デスよ。弟使って、ポス、殺したよ」
　　　　キムはかなり陳万昌を嫌っている様子だ。

　　　　キム　「アンタも陳の弟に狙われた。今度はや（っ）つける番。世の中、ホント、うまく出来て
　　　　　　　　るねー。ホントよ」

　　　　現われる劉徳源（小沢栄太郎）。

　　　　劉　　「劉です。よく来てくれました。易しい仕事です」

　　　　そこへ劉に呼び出された小寺がやってくる。彼は陳兄弟の後釜になり、劉と取り引きをするつも
　　　　りなので加勢に来たのだ。小寺は中田を見て驚く。狡猾な小寺は、中田はこんな時のために自分
　　　　が送り込んでおいた男なのです、などと苦しい言いわけをしながら、バツが悪そうに改めて中田
　　　　に金を渡し、陳殺しを依頼する。しかし、中田が最も驚いたのは、別れた恋人・美津が劉の妻に
　　　　なっていたこと。部屋で二人きりになった時、中田は小寺から受け取った金を病院へ送ってくれ
　　　　るように、彼女に頼む。シャワーを浴びているフリをしながら、その話を立ち聞きしている劉。
　　　　美津は、中田に、人殺しだけはしないでほしいと懇願する。

　　　　美津　「あたしとあなたの距離は、考えていたより遠かったのね…」

◆

　　　　…夜、陳の屋敷。陳たちはマージャンをしているが、番犬の悲鳴を聞き、敵襲を知る。屋敷中の
　　　　電灯を消す。陳一味（前述の子分たちの他にも、伊豆見雄〔後に英輔〕さんや宮原徳平さん、水
　　　　木京二〔後に京一〕さん、古田祥さん、立川博さんなどが扮する子分がいます）と、劉とキム、
　　　　小寺たち（劉には、長弘さんや菊田一郎さん、本目雅昭さん、河瀬正敏さん、佐藤圭司さんなど
　　　　が扮する子分がいます）で大銃撃戦になる。中田は配電盤を元に戻して電灯をつけ、得意の早撃
　　　　ちで、テツたちや、小寺、キムまでもホールドアップさせる。

　　　　中田　「俺はおまえたちを一人も殺したくない。全部まとめて警察にブチ込むんだ」
　　　　小寺　「バカな！。誰に頼まれたんだ！？」
　　　　中田　「誰にも頼まれやしねえよ。これが俺の仕事さ」
　　　　小寺　「すると…おまえは刑事か！？」
　　　　中田　「今まで気が付かなくても、おまえをバカだとは言わねえよ。ここまでこぎ着けるのに随
　　　　　　　　分苦労したんだ。気が付かれちゃ、俺の負けだからな」

　　　　そこへ大隆が入ってきて、中田に銃を突きつける。

　　　　大隆　「間違いなくオマエの負けだ。動くな、中田！。オマエ、警察だろうと殺し屋だろうと、
　　　　　　　　死んでもらうの、カワリない。ワタシ、ハジキ捨てろ、ヤボなこと言わない。イイから
　　　　　　　　撃て。ワタシも撃つ。タマなければ貸してやるぞ」
　　　　中田　「（タマを確かめると残りは二発）…親切に有難う。しかしタマは充分すぎるぐらい残っ
　　　　　　　　てる」（ここは『拳銃無頼帖電光石火の男』の時と似た雰囲気）

　　　　振り向きざま、大隆の拳銃を素早く撃つ中田。「見事だ」と言いながら、劉が入ってくる。中田
　　　　は劉に銃を突きつけられるが、そこへ警官隊が突入してくる。大がかりな麻薬組織撲滅作戦だっ
　　　　たようだ。中田は千加子の部屋へ。

　　　　千加子「やっぱり来てくれたのね。でも今度は自分の力で、やっと自由になれたらしいわ…」

　　　　そう言う千加子の足元には、護身用にと千加子に渡した銃で撃たれた万昌が倒れていた…。

◆

　　　　…菊代の目の包帯が取れ、彼女は目が見えるようになる。

　　　　菊代　「兄さんは？（誰も答えない）。中田さんは？。中田さんは…中田さんはどこにいるのか
　　　　　　　　しら？…」

　　　　…中田と石岡が生田警察署から出てくる。中田は次の仕事があるという。

　　　　石岡　「仕事？」
　　　　中田　「はは（笑）、間違えちゃ困るぜ。俺は殺し屋じゃないんだな。あんたもせっかく釈放さ
　　　　　　　　れたんだ。これからは菊代さんのために真面目に働いてくれなくちゃ困るよ」
　　　　石岡　「判ってるよ。だけど、おまえ、死んだ兄さんの仇を討つとあれほど言っていたのは、嘘
　　　　　　　　だったのか？」
　　　　中田　「嘘じゃないさ」
　　　　石岡　「それじゃ、何だって、俺に親切にするんだ？」
　　　　中田　「バカだな、俺は警察官だよ」

　　　　…東京への列車の中。菊代は列車の中に中田がいるような気がすると言い、探してみることに。
　　　　デッキでタバコを吸っていた中田は、隣の客車から菊代が近付いてくるのに気付く。心の声。

　　　　中田　「あの人は俺の顔を知らない。俺の顔を知らないんだ。俺はあの人が好きだ。でも俺は黙
　　　　　　　　っていよう。今の俺には新しい危ない仕事が待っているんだ」

　　　　菊代がそばに来る。菊代の心の声。

　　　　菊代　「この人かしら、中田さんて？」

　　　　しかし何の反応もないので、菊代は、また次の客車へ進む。中田は彼女を見送りながら、やはり
　　　　心の中で言う。

　　　　中田　「いつか言えるさ、君が好きだって…」

　　　　主題歌が流れ、海岸沿いを東京へ向かう列車が去って行きます。終。

◆ ◆ ◆

　　　　…しかし、いつか言えるはずだった「好き」という言葉は、残念ながら言えなかったわけです、
　　　　赤木圭一郎さんの死去により。ラストの銃撃戦のあたりが若干盛り上がりに欠けるのではないか
　　　　と思うのですが（あっさり終わってしまうので）、もしかしたら、この主人公もシリーズ化され
　　　　ることになっていたのかもしれません。すると、藤村有弘さん扮する怪しい中国人・キムも死ん
　　　　ではいないので、また出てきたのかもしれませんね（笑）。

　　　　…ちなみに2000年、日活芸術学院創立25周年を記念して、学院生が製作した映画が『「紅の
　　　　拳銃」よ永遠に』。監督／脚本／及川善弘、脚本／丸山正樹、撮影／高村倉太郎、音楽／佐々木
　　　　謙。進路が決まらない高校三年生・一平（黒部弘康）が映画『紅の拳銃』を見て感激する。同じ
　　　　クラスにいる人気アイドル・三咲（中丸シオン）を主演に起用して映画製作をする。相手役に不
　　　　良・中西（浜田学）を、池内（中谷一博）や神田（戸田隆）たちをスタッフに起用して撮影を開
　　　　始するが、三咲が事務所をやめ水商売で働いていることを知ってしまう。そこで一平は、映画女
　　　　優を目指す彼女のためにも素晴しい作品を撮ろうと決意するというのが大筋のようです。また、
　　　　宍戸錠さんが特別出演されています。宍戸錠さんの役は、地元（調布市）の暴力団・城島組こと
　　　　城島興業の社長。主人公たちが自主制作映画を撮影中に城島組の若い組員に因縁を付けられます
　　　　。結果、城島組の事務所に主人公が謝りに行きます。若い組員とモメているところで、主人公が
　　　　撮影用に持っていた回転式のモデルガン・コルト45（ある人物が日活撮影所から持ち出したと
　　　　いう設定）が転がり出て、そこに社長が登場します。コルト45のモデルガンを手にした社長は
　　　　「コルト45は22（口径）やサンパチ（38口径）より殺傷力が強い…」という『紅の拳銃』で
　　　　の垂水悟郎さんのセリフを口にします。組員たちにオートマティックより回転式の方がなぜ良い
　　　　かを問いますが、答えたのは組員ではなく主人公で（笑）、ここでまた主人公は、『紅の拳銃』
　　　　の垂水悟郎さんのセリフ、「自動式は不発があるといわゆるツッコミを起こして～名人でもお手
　　　　上げだ」を言います。主人公が『紅の拳銃』を知っていることに喜んだ社長は、「赤木圭一郎に
　　　　免じて今回は許してやる」と言い、一件落着となります。なかなかシャレていますね。

LAST UP DATE ◆ 2022年7月17日
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